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タミヤのプラモデルが示してくれる「日本初のF1優勝マシン」が強かった理由/ホンダ RA272

 ホンモノは何度も見たことがある。でもどうしてもプラモデルを作ろうという気になれなかったのがホンダRA272だ。実用でもレースにおいてもすでに世界的な評価を確実なものにしていた二輪だけにとどまらず、手探りで自動車(といっても軽トラックだ!)の製造販売を始めた1963年に四輪レースの最高峰であるF1に参戦し、2年後になんと優勝を遂げてしまうという冗談みたいな話がどうして実現したのか。

 RA272の実車をひさびさに眺める機会があったので周囲をぐるぐる回っていると、「V12エンジンが横置きになっている」ということにいきなり気がついた(ファンの間では”常識”に近い事実なのだが、その瞬間まで自分はエンジンの配置に気を配ったことがなかったのだ)。さまざまな文献を読むと自分の直感はどうやら当たっているらしく、プラモデルを組めば、きっとそれが自分の目で確かめられるはずだと思ったのである。

 タミヤのRA272はまさに1.5リッターV12エンジンを組むところから始まる。コクピットの後ろに縦(=気筒が前後方向に並ぶ向き)で置かれるF1マシンばかり組んできた身にとって、横置き(=気筒が左右方向に並ぶ向き)のエンジンは新鮮……と言いたいところだが、「なるほど、これはバイクと同じなのだ」ということに気づけばしめたものだ。

 人間の乗るバスタブのようなモノコックの後ろにフレームで挟まれたエンジンがあり、両脇からではなく後ろに向かって伸びる排気管。ホンダがいきなり四輪の世界選手権に参戦し、短い期間でその頂点を獲れたのは、レースで鍛えてきたバイク用エンジンやトランスミッションのノウハウをそのまま流用するという思い切ったアイディアがあったからに違いない。

 本来は見えなくなってしまうエンジンも、透明のプラスチックで用意されたカウルを塗装しなければ完成後も眺められる。ここだけが透明なのは、「なぜこのマシンが強かったのか」を組み立てた人に伝えるタミヤ流の演出であり、緻密なフレームやサスペンションの華奢なリンク機構もエンジンの精密さを盛り上げる立役者として機能している。

 このプラモデルの初出は1996年。コンピューターによる設計/製造ノウハウがいまほど研ぎ澄まされていなかった頃の商品であるがゆえ、組み立てには少々慎重さが求められる。しかし、ホンダのレースに賭ける情熱と確実に勝つための冷静な判断が同居した空前のマシンを誰もが体感できるアイテムとしてこれ以上ない存在だ。パーツを切って貼るだけで現れるエレガントな佇まいは、ノスタルジアのフィルターを突き破って組む者に深い感動を与えてくれる。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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