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設定画こそ本体!/「スペースコロニーに真面目に向き合う態度」のプラモデル。

 「人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった」と言わんでもわかりますね。買わなきゃいかんと思っていたのにまだ買っていなかったプラモデルにバッタリ出会ったので買いました。ウェーブの「スペースセツルメント」です。耳慣れない名前ですが、要は『機動戦士ガンダム』シリーズで親の顔より見たスペースコロニーの原案、「オニール・シリンダー」を立体化したものです。もともと物理学者が大真面目に考えたデザインですから、直径、長さ、回転数に至るまでガッチリ決まっています。そこにリアリティ(=現実味)があるから、ガンダムだけではなく数多くのSF作品にほとんどこのままの姿で登場しています。

 カタチがカタチですから、そんなに複雑なパーツ分割がどうこうとか、驚くべき仕掛けがあるとか、そういう類のプラモデルではありません。三枚の陸地と三枚の採光窓が設けられた長い円筒を組み、そこに光を取り入れるためのミラーがあり、先端部には農業や漁業を営むためのプラントがリング状にくっついている、という形状を再現しています。しかも点対称なデザインですから、大きめのパーツは同じランナーが3枚ずつ入っていてそれを組み合わせることになっており、まあなんというか、ごくシンプルで「組み立てる面白さ」に対する期待感はそこまで感じられません。

 どっこい、付属の「製品開発用設定資料集」を読むと、みるみるうちにこのプラモは面白さが倍増していきます。スタジオぬえの宮武一貴氏(関わった作品は『宇宙戦艦ヤマト』『超時空要塞マクロス』『聖戦士ダンバイン』などなど……きりがないので知らない人はwikipediaを参照されたし!)によって描かれた「いまオニール・シリンダーをプラモデルにするならこれくらいのことを考えてカタチを決め、ディテールを彫刻しないとだめでしょ!」と言わんばかりの”設定”がモノクロ12ページに渡ってギッシリと掲載されています。プラモデルひとつ作るのに、こんなに……と言いたくなるほどの濃厚さ。本格家系コロニーです。

 このプラモ、箱には「NONスケール(縮尺は特に決まっていませんよ、の意)」と書いてありますが、オニール・シリンダーは遠心力で重力を発生させ、安定した大気組成や姿勢制御を実現するために「直径5マイル (8.0 km)、長さ20マイル (32 km)」と相場が決まっております。宮武氏はそれをごくあたりまえのこととして、「じゃあ全長18cmの模型にしたらスケールはこれくらいで、表面にこういうディテールが入っているとそれは実物で◯◯mくらいの大きさになるよね。模型的にはいいけど、現実には絶対に有り得ないよね」と論理を組み立て、それに見合ったイラストを描き、びっしりと注釈を書き入れています。

 オニール・シリンダー、じつは2個でワンセット(回転によって生じるジャイロ効果を相互に打ち消すために逆回転するコロニーを連結する)という構想なので、これがひとつだけ単独で宇宙に浮いているのは「ダウト」です。でもみんなが知っている「スペースコロニー」をみんなが知っているカタチで手もとに置いておきたい。じゃあどうするのがベストだろうね?というのをすっごく真面目に考えた人が世の中にはいる。その思考をまとめて読める(単一シリンダーでの姿勢制御にも言及されているのだ!)。ああ、素晴らしいじゃないですか。

 「正直表面のディテールは凹んでいるより出っ張っている方がまだリアルだと思うけど、それも模型的に盛り上がるデザインに過ぎないよ(本当にオニール・シリンダーを建造したら、おそらく表面は限りなくツルツルに見えるだろうよ)」というのをわかった上で眺めるSFチックな彫刻。そしてそのままパチパチと組んで現れるのは意外性もなにもない、いつものスペースコロニーのカタチ。でもキットのなかに副読本があるおかげで、あなたは人より少しスペースコロニーに詳しくなれるのです。人類の未来は、もしかしたらこういうところから切り開かれるのかもしれません。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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