タミヤ最新の飛行機プラモデルは、進化の最終地点かもしれない。1/48傑作機シリーズ F-35A レビュー!

 タミヤのプラモデルを褒めるときに「バチピタ」という言葉がよく使われる。パーツとパーツが吸い付くようにピッタリと合うさまを指しているのだけど、21世紀のタミヤ製品を見てみると、全部そうなんだよね。……つまり、「バチピタじゃなければタミヤじゃない!」というところまで設計と成型のノウハウが極まっている、ということ。

 実機とか資料の綿密な取材、感動的なパーツのフィッティング、そしてシンプルながら明快な説明書の組み合わせ。これらが超高次元でマッチしているのがタミヤがトップブランドである証であるわけですが、彼らは今なお「その先に何があるのか?」という冒険をしているように感じられます。ということで、最新のF-35Aが本当にすっごいから、みんなでこれを体験したい。買いましょう。

 タミヤの1/48 F‐14トムキャットやP‐38ライトニングは「どうすればちゃんと組めるのかな……」というカタチの飛行機(つまり、タミヤが手掛けるまでは「カタチにするのが難しいキット」しかなかったんだよね)を、圧倒的なパーツ精度でねじ伏せました。そこにあったのは、誰が組んでも高い確率でズレや隙間のない完成品を手に入れられるし、「いつ、どのパーツを塗装し、接着するか」というのを説明書の文字ではなく「パーツの佇まい」で手を引くように教えてくれるという驚き。

 で、今回のF‐35Aを組んでみると、この考え方をさらに推し進めたパーツ構成と細部への気配りが感じらるのです。

 ディテール表現のためにやたらめったらパーツをこまかく分割するのではなく、完成品の強度やアウトラインの美しさを損なわないようにデッカいパーツを要所に配置してガッチリと組み合わせる構造。しかもそれらがうっかりズレてしまわないよう、あの手この手で位置や角度を決めるための嵌め合わせを設けています。その「異次元のバチピタぶり」は(YouTubeでもタミヤの公式アカウントがその様子を公開していましたが)なんと接着剤を使わずとも主要なユニット同士を仮組みできるほど高精度。


 ミクロな視点で眺めてみると、複数パーツの位置決めにコンマ数㎜単位の余裕を持たせてうまく馴染むようにしてある箇所もあれば、機体表面の凹部にはめ込むクリアーパーツや脚収納庫の切り欠きはまったくズレずに組み上がるようにするなど、各部位の寸法はボーッと組んでいるだけでは気づかないほど精密にコントロールされています。

 ただひたすら精度を上げ続けているつもりが、パーツの寸法がギリギリだったり設計通りの大きさになっていなかったりして全然思い通りに組めなくなってしまっているキットも世の中にはたくさんあるのに、「組むときに、どこにどれくらいのファジーさがあると快適か」というパラメーターまで全部考えて(しかもそのとおりに成形されたパーツがちゃんと箱に入って)いるのは、おそらくタミヤくらいのものでしょう。恐ろしい!

 さらにこれらを接着剤で貼り合わせるにしても、現代は超高速で乾燥する流し込み接着剤の使用が前提。これを流し込みやすいように、合わせ目の裏側に穴を設けたり大きなノリシロの一部に小さな切り欠きを設けたりすることで「流し込みタイプの接着剤で不用意にパーツを汚してしまう」というリスクを極力減らそうとしていることが窺えます。

 ここまで書いたような工夫によって、これまでは自分で考えなければいけなかった「塗装のタイミング」や「組み立ての順序」も自ずと導き出されるようになっているのですが、それを可能にしているのはプラスチックの成形品と切っても切れない関係にある「歪み」や「ヒケ」がないからです。

 プラモデルは歪みやヒケ、バリなどによって、設計の狙い通りに組み上げることができない状態になってしまうこともしばしば。しかし、「意図したとおりの設計を意図したとおりのパーツ形状でユーザーに送り届ける」という、当たり前のようでいてとても難しいことをタミヤは恐るべき努力で実現しています。これは社内で一貫した設計と金型開発を続けることで得られたノウハウがあるからこそ。

 もしこのキットにもったいない点があるとすれば、ユーザーが無意識に組み立てを楽しんでいる限り、これらの執念深いとすら言える工夫の数々があまりにも自然に、難なくそこに存在しているかのように思えてしまうところにあるのかもしれません。

 兵装パターンやマーキングのバリエーション、キャノピーの開閉やフラッペロンの上げ下げなど、完成時の姿を豊富なバリエーションから選べるのも本キットの大きな特徴。極限まで組みやすく、塗りやすく、完成した状態でもガッチリとした強度が感じられるアイテムだからこそ、何度も作りたくなる魅力があります。

 ぶっちゃけF-35のプラモなんて、この世にゴマンとあります。もっと安いのも、もっとパーツ数が少ないのも、もっと細かくパーツが分割されていて緻密そうなオーラを放っているものも。しかし、タミヤが初めて世に問う第5世代戦闘機のプラモデルは、これまで同じモチーフに挑んだ数多のメーカーはもちろん、世界に冠たるトップブランドとしてのタミヤ自身を超越するために生み出された文字通りの傑作。そこに込められた工夫を知れば、組む楽しさも倍増するはずです。みなさんも、ぜひ。

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。