発売日の喧騒を尻目に「もう買えないかもな」と思っていたHGガンダムルブリスがふと手に入りました。家に帰って作り始めたら、異常に組みやすい。パーツを探したり、コレは右だっけ、いや左だっけ……と確認する手間がふだんの半分くらいなんですよね。よくある「左右共通のパーツはこっちのランナー、左腕でしか使わないパーツはここから拾ってきて……」と文字通り右往左往しながら組むタイプのロボットプラモと比べると快適性が段違い。
どうしてなのかランナーを凝視していたら、気づいたんです。同じカタチのパーツを2個使うなら、その2個がちゃんと隣同士にあって、番号も同じものが振られている。これはとっても素敵な配慮だな……と思ったのですが、思い出してみればちょっとイレギュラーなことです。いままでのガンプラでは「右と左で同じ形状のパーツを使う場合は同じ形のランナーをまるごと2枚入れときますね」という手法が多く見られました。
そもそもプラモは超高額な金型を作ってから大量生産することで安価に同じものをたくさん届けるプロダクト。おなじものがふたつほしければ、「金型はひとつで、パーツを2回作る」という判断が確かに正しい。しかし、ガンダムルブリスでは同じランナーを2度打つのではなく、じつに30ペア以上の「同じ形のパーツ」をわざわざ最初から金型に彫っているのです(30ペア=60パーツぶんの金型を彫るというのは相当な仕事です)。コスト、めっちゃかかっているはずです。
たとえば鯛焼きを一匹を焼くのに5分かかるとすると、型がひとつで注文が2匹ならお客さんは10分待つことになります。型がふたつなら2匹同時に焼け、待ちは5分で済みます。10分と5分では大した差がないように思えるかもしれませんが、売り切れ続きでなかなか買えないような大人気のプラモデルならどうでしょうか。同じ時間で倍の数を生産できるというのはかなりとんでもないことです。
ガンダムルブリスのランナーは「パーツを探しやすい」ということもさることながら、これから始まる新番組のメカをひとりでも多くの人に正価で届けたい!というバンダイスピリッツの気合いがカタチになったものだと言えます。コストはもちろんかかるはずですが、他のアイテムも大量に生産しながらたくさんのプラモファンに届けようという本気のジャッジが、なんと組み立てやすさにもつながっている……!
ちなみに私はこのガンダムルブリスを、巣鴨地蔵通り商店街のこぢんまりとした玩具店でたまたま見つけました。棚のほとんどが小さい子向けのオモチャで埋まっていて、プラモの在庫なんて数えるほどなのに、唯一のガンプラとしてひっそりと佇んでいたガンダムルブリスとべギルべウ(と、グワジンね)。
私がこのルブリスを買ったあと、店の奥に消えた店主の老人はもうひとつの箱を出してきて、何度もアイテム名を確かめながらもとあった場所にそっと補充していました。こうしたお店にもキチッとガンプラの新製品が複数届くようになった2022年の夏。HGガンダムルブリスのランナーには、そのための努力の跡が刻まれていたのです。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。