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「生まれてはじめてカーモデル作る人」を観察した話。

 妻は無類のワイスピファンである。全体を通して何周も何周も観ており、毎度ストーリーを忘れる私に「ここのシーンのこのアクションが良い」みたいなことを解説してくれるのだが、最終的に私も映画館でブヒブヒ泣いてしまう程度にはワイスピオタクに仕立てられてしまった。仕返しというわけではないが、ブライアン(ポール・ウォーカー)が劇中で愛用していたR34 GT-Rのプラモを渡すとどうなるのかを観察させてもらった。

 接着剤不要の楽プラを渡したのは別に「初心者だから」とか「簡単だから」ではなく、ボディが青いこと、ダイニングテーブルで工具をバラバラ出して細かい作業をするのは私も性に合わないから。夕飯の後、晩酌しながら楽しむ程度の付き合い方……を考えると、たしかに自ずとアオシマのザ・スナップキットシリーズが選択肢に浮かぶ。

 ボディにシールを貼る工程はサラサラと完了し、フロントマスクに黒いパーツやヘッドライトのリフレクターを入れる工程でかなりまごついていた。「裏面から黒い部分が見える」とか「どれくらいの力をかければパーツが固定されるのか(実際、リフレクターパーツは相当な力を入れないとパキンとはまらない)」みたいなことがわからないと、たしかにどうするのが正解なのか、の想像もつかないみたいだ。

 で、ちゃんとハマりきっていないパーツはボロンと落ちる。これが全部ユーザーのせいなのか、設計なのか、そもそも接着すれば別に落ちなくない?とか、いろんなことを考える。パーツが落ちる。じゃあどうする?が、そもそもインストールされていない人は、この瞬間に不安や悲しみに襲われるのだった。
 メーカーに文句を言うつもりは毛頭ない。ただ、オレがプラモを組んでいる時は超高速で「うまくいきそうなこと/いかなそうなこと」「予想がつかないことが起こりそうな予感/そうなったときにそれを回避する方法」を演算して、大量のストーリー分岐のなかから最適なものを無意識で選んでいる、ということを思い知らされた。

 「説明書には書いてないけど、ここは裏からピンに流し込み接着剤をスッと入れておけば3秒で外れなくなる」と助け舟を出す。ちょんと流して、数秒の間Amazon Prime Videoで流しているワイスピの画面を見ているうちにフロントマスクのパーツは落ちなくなった。「へえ、塗るんじゃなくて流し込むんだったら楽ですね」という感想がこぼれる。そう。流し込み接着剤は本当に偉大なのだ。

 今度はガラスがハマらない。真ん中にくっついているスプルー(言ってみれば、ランナーだ)が邪魔なのだが、説明書ではこれを切り取れという指示がない。邪魔なら切ればいいじゃない、というのは何が邪魔で、何が必要な形状なのかを知っているオレの話でしかなくて、それを判断する材料って、メーカーの歩み寄りかモデラーの経験値UPか、その両方で蓄積されていくもんだったわなぁ、という。

 リアウイングは大好物らしい。どのパーツが何色なのか予想もできなかった妻が、一瞬で青いランナーに手を伸ばしていた。しかしこの湯溜まり(パーツの形状をきれいに出すために余剰な丸い部分がくっついている)が必要なのか不要なのかが判断できない。たしかにここはかなり複雑な形状をしていて、オレも小さな子どものときだったら混乱していたかもしれない。

 キャビンの中身のトリッキーな構造も、見ようによっては革新的。しかしまさか3辺を折り畳むと箱型になるなんてことは知らないわけで、「なんでこれが車内になるんですか???」とまごついていた。車軸はローダウンの位置で組み込み、なんとか映画上映中の90分程度で完成。「ブライアンのクルマじゃなかったら……なんで組んでるかわからんなぁ……」と言ってましたが、シールを貼ったりパーツを組んだりする工程は着せかえ人形で遊んでいた幼少時の感触に似ているらしい。そうか。
 たとえばこれが最初から接着するプラモだったら、とか、他のメーカーの他の形のものだったら?と思うけど、このGT-Rに導いたのはワイスピなわけで。では、次に「組んでみよっかな」と思ってくれるプラモはなんだろうな。別に押し付けたくはないのだけれど、やはり「プラモを組んだことがない人」の意外なリアクション、意外なオドロキというのはとても貴重で、とても尊いものだなと思ったわけです。

監督:ジャスティン・リン, プロデュース:ニール・H・モリッツ, プロデュース:ヴィン・ディーゼル, プロデュース:マイケル・フォトレル, Writer:クリス・モーガン, Writer:ゲイリー・スコット・トンプソン, 出演:ヴィン・ディーゼル, 出演:ポール・ウォーカー, 出演:ドウェイン・ジョンソン, 出演:ジョーダナ・ブリュースター, 出演:タイリース・ギブソン, 出演:クリス・“リュダクリス”・ブリッジス
からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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