沢田研二と国立科学博物館/ハセガワ 1/24 マツダ サバンナ RX-7(SA22C)

 航空ジャンク市に行くのが趣味の友達がいて、ある日「お土産があるから上野に出てこい」と言われてモツ焼き屋で飲んだ。手渡されたのは何某かの航空機から引っこ抜いた高度計だったのだが、レロレロに酔っ払って駅に向かう途中でその土産を店のテーブルに置き忘れたことに気づき、踵を返して店の暖簾をくぐると店内は大騒ぎになっていた。

 置き忘れた高度計は知識のない人からすれば「得体の知れないメーターの付いた金属製の筒」であり、それを発見した店員は「爆弾を置いていった客がいる」と勘違いしたらしい。謝り倒してブツを取り戻し、ひやりと冷たい高度計を握りしめてまた雑踏の中を歩く。周りの人たちは誰も気づかないだろうけど、その瞬間だけ、自分は沢田研二の気持ちになっていた。

 上野といえば、国立科学博物館に「X605の原寸手書き図面」が展示されている。X605というのはRX-7(SA22C)の開発名称であり、CADのない時代には職人の手作りであるクレイモデルを工業製品として量産するために図面に置き換える作業が必要だったということを伝える資料だ。無数に重なった曲線は息を呑むほど美しく、その線から我々一般人が読み取れることなどほとんどないにも関わらず、そこで足がピタリと止まってしまってずっと動けずにいたことを思い出す。

 中学教師が自作の原子爆弾で日本政府を脅迫するというとんでもない映画、『太陽を盗んだ男』のクライマックスは、おそらくこの初代サバンナ RX-7のリトラクタブルライトがパカッと開いて首都高でのカーチェイスへと向かうシーンだろう。真正面から撮られたカットで見えるボディのアウトラインは科学博物館で見たそれだし、「爆弾のお兄さん」と逃避行を遂げようとする池上季実子の危うげなキュートさとこのクルマのヨレヨレした挙動がマッチするさまは筆舌に尽くしがたい。

 ハセガワのNEWアイテム、1/24のサバンナ RX-7(SA22C)は自分にとってこれらの記憶の断片がそのまま結晶になって箱詰めされたようなプラモだ。正直、自分はこのクルマそのもののスタイリングを文句なしにかっこいいと言える世代ではないのだが、これが日本の自動車史にとって特別なメカであることはすごくよく分かるし、だからこそ手に取って眺め回すことで新しい魅力に気付くこともあるはずだ。

 ボディーカラーは科学博物館の図面の前に置かれた模型と同じマッハグリーンなのが最高だ。部分塗装でもセブンらしさを味わうことができる。とはいえ、ジュリーが盗んで乗り回していたのはシルバーだったし、シャーシ裏面はいっそ真っ黒で塗りつぶしてしまうのもいいな、と思いながらハコを開ける。美しいシボ加工とツルッとした鋼板のコントラスト、ダッシュボードのいかにも’70sなディテールが現れて、これまた丁寧に塗り分けたい気もしてくる。

 特徴的なシートの模様を再現するデカールや、リアウインドウを塗り分けるためのカット済みのマスキングシートも用意されていて、ハセガワの質実剛健なカーモデルの作りにも少しずつ時代の潮流にマッチした空気感が出てきているのかもしれない。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。