

「やる気スイッチはイヤイヤでもいいから最初に手や体を動かすことで勝手に入る」という言説がありますね。なんでもいいから作業を始めると、筋肉の動きとか「何かが始まった」ということに反応してなんかやる気が出てくる……というのは機序こそ不明ですが(それを作業興奮と呼ぶ、みたいなテキストが散見されますがアレは全然原典が見つからないのでネットの都市伝説みたいなもんらしい)、実感したことがある人も多いはず。
電車の中で考え事をしたり仕事したりご飯食べてたりするときに「うわー、なんかプラモを作りたいなオイ!」と思っても、いざ机の前に座るとあれやこれやが気になったり、これから対峙しなきゃいけない工作や塗装のことを考えるとなんだか手が動かなくて、あーあ、別のことを始めちゃう。プラモが好きでプラモ買ってきたはずなのに、どうしても最初の一歩でエンジンがかからないこと、ある。
飛行機模型でそこに大ブレーキをかけているのが窓ワクの塗装なんじゃないかしらね、と思っていて、ペローンと大きな一枚窓なら「筆で塗ればいいかな(これも結構消極的な気持ちだ)」とか思えるけど、このボールトンポール・デファイアントとかになると窓枠の数と形状がすごすぎて箱を開けるたびに「ウッ」とか言いながら閉めることになる。

最近「じゃあそこはお金で解決すればいいんじゃないか」と思うようになった。マスキングテープを正しいカタチに切って貼る(もしくは貼ってから正しいカタチに切り出す)というのはコツというのがあんまりなくて、基本的に根性と時間が必要な工程だ。たとえば1時間かけて複雑な窓枠の形状をマスクするというのが楽しくてしょうがないというならまあそれは止めないが、「もりもりカタチを作って塗りたい」というときにカット済のマスキングシートはめちゃくちゃ有益だ。
……というか、ボールトンポール・デファイアントのカット済マスキングシートなんかそのへんで売ってるのかな?と思ったらAmazonであっさり買えたということにびっくりしたのだ。飛行機の種類はもちろん、縮尺とかメーカーによってカタチも大きさも違うマスキングシートを網羅するというのはすごく大変なことで、昔は海外のメーカーが発売しているものを血眼で探してわりと高い値段で買う、というのが当たり前だった(つまり、すごく金と暇をかけて楽をするという”お大尽の遊び”というイメージがあったような気がする)。
いつの間にやらCADやベクターデータを操れるイラストレーション向けツールもすごく手に入れやすくなったし、カッティングプロッタ(データ通りに紙を切ってくれる装置)も比較的安価になった。これによって、本当にいろんな種類の飛行機、いろんなメーカーのプラモに対応したマスキングシートがかなり安く手に入るようになったのだ。少なくとも、その値段は1時間の単純作業をするアルバイトの時給よりは安価だ、ということは覚えておいていい。

カット済のマスキングシートを窓にパパパーっと貼ってしまえば、あとは組んで塗るだけ。あとで待ち構える面倒な工程がいなくなったこともあって、サクサク組むのが楽しくて仕方ない。最初にちょっとだけ手を動かすことでなにがしかの興奮物質もバキバキに分泌され、飛行機の完成はいままでよりずっと近くに見えること間違いなしだ。
案外狭いコクピットがあって、後ろに銃座がスポッとハマる丸い穴がある。案外シュッと絞られた機首なんだな、みたいなことにすぐ気づけると、やっぱりこの飛行機をすぐにカタチにしてみたいという気持ちが盛り上がる。マスキングシートは、ランチ一回分の値段で買えるプレミアムクラス行きのチケットだったのだ。
