ハードコア・エアブラシ読本!『月刊モデルグラフィックス』2020年12月号で己の腕と向き合う。

 まず最初に書いておきたいんですが、模型作る上でエアブラシを使えるかどうかというのは「大量の荷物を運ぶときににトラックを持っているかどうか」みたいな話。そりゃ普通のセダンでも荷物は運べるかもしれないけど引っ越し屋さんはセダン使わないし、冷蔵庫とか洗濯機はそもそも乗用車に載らないでしょ。

 みたいなことを無視して筆とエアブラシを比較して云々……からの「筆でも塗れる」「エアブラシが使えない環境の人間もいる」という論争がTwitterでは周期的に繰り広げられていますが、そもそもエアブラシと筆は違う道具なので較べてもしょうがないし、エアブラシにできて筆ではできないことがあるしその逆ももちろんある、ということは覚えておいてください。

 プラモの塗装においてエアブラシは(そもそもエアブラシはプラモの塗装のために開発されたものではないのですが)「均一な表面を素早く塗ることができる」「グラデーションやボケ足のある塗装ができる」「プラスチックや塗装表面を直に触らずに上から色調や質感をコントロールできる」という役割を持った道具。

 筆でもだいたい同じことができるわい、という人がたまにいますが、それは筆の扱い方、塗料の扱い方を専門的に履修して運用できるだけの知識と経験があるということ。つまり、そういう知識と経験がない人は均一な表面とかグラデーションとかきれいなツヤとかがほしければエアブラシを使うのが一番手っ取り早くて最終的にコストパフォーマンスが高いからプラモの世界でも市民権を得たわけです。

 もちろんエアブラシにもデメリットはたくさんあって、筆のタッチを出すのは無理だし塗料はだいたい空気中に飛び散っていくので無駄が多いし、部屋が溶剤と塗料の霧で汚染されるのを防ぐには比較的スペースをとる塗装ブースを導入する必要がありますので、そのへんは趣味としてプラモをやる上で覚悟を決めるか家族を説得するか諦めるかという選択を突きつけられます。このへんがどうにもならない人がいるのは百も承知で、でも世の中の趣味というのはだいたい覚悟とか選択とかが付いて回るものなので、やっかんだり怒ったりしてもしょうがない。使う人と、使わない人がいる。そんだけの話です。

 さて、今月のモデルグラフィックスはそういった前提を全部すっとばし、エアブラシを運用するということの本質に迫る濃厚な内容。昔からの常識や先入観を一旦脇にどけた上で、時間の経過とともに進化したした用具や用法のおさらいから始まってあらゆるミステイクや誤用を例示しつつ、その傾向と対策をガッチリと記述していくかなりのストロングスタイルとなっています。

 普段から息を吐くようにツラツラとエアブラシを使っている私でもハッとさせられるような項目が多く、持ち方、レバーの引き方止め方、動かし方や対象物とノズルの距離、分解清掃や修理依頼の方法まで盛りだくさんの内容。

 模型専門誌のエアブラシ特集というと、コンプレッサーやハンドピースのカタログがあって塗料の適切な薄め方とか適正な圧力と距離の図といった基礎的な内容をツラーっとおさらいして適当な作例があって終わり、というものが正直ほとんどだったのですが、本特集にいわゆる「作例」や「テストピース」はまったく出てきません。

 ひたすらに硬派な、「これぞエアブラシをうまく使うための知識だ」という本特集。白眉は中盤に設けられた「エアブラシ基本練習シート」でしょう。いわゆるドリルです。

▲私も早速チャレンジしてみたよ……

 実際に取り組んでみてわかるのは、「本当にオレはエアブラシのことが何も分かっていなかった!」という事実。とりあえず色が付いて便利だなとか、これだとちょっと濃すぎるな……みたいなことを場当たりで対処していたところに、「さあこの課題をキレイにこなしてみなさい」と言われると、そこには確実にロジカルで体系化されていて再現性のあるノウハウが必要なのだということに改めて気付かされます。

 もしあなたがエアブラシを使っている(あるいは使ってみようと思っている)のならば、この本は確実に後にも先にもなかった「本物の教本」として役立つはずです。

 もちろんいつものとおり通常の作例ページも充実。とくにドイツレベルの「ランドローバー・シリーズIII」の作例と8ページにもわたるHow toは圧巻の内容です。古くとも大事に乗られているクルマをどう演出するのか、ものすごく沢山のヒントが込められた応用性の高すぎる記事となっていますので、大いに参考にすべき!

 ということで、月刊モデルグラフィックス2020年10月号、必見です。読まなきゃ損。読んでなきゃウソ。それくらいの内容ですので、みなさんもぜひ。

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からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。