それはまるで「エンドロール」を目で追うような。

 先月,モノクロ写真における光と影について考えている際に,谷崎潤一郎著の『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』という書籍に出会いました。

 この中で,「われらは何処までも、見るからにおぼつかなげな外光が、黄昏色の壁の面に取り着いて辛くも余命を保っている、あの繊細な明るさを楽しむ。」と日本家屋の和室に用いられる土壁や砂壁についている箇所があります。

 前置きとしてこの一節を引用したのは,土や砂といった天然素材の持つ質感や色の性質をプラモデルに上手く取り入れることで,プラモデルが「落ち着きを与えてくれる室内装飾品」といった新たな側面を持つことになるのではないか,と考えたためです。

 そこで土や砂といった素材と模型が繋がっている物を考えた所,「クレイモデル」というものを思い出しました。

 「クレイモデル」とは,自動車や家電が市販化に至るまでにデザイナーが描いたスケッチやCAD(コンピュータを用いて描いた設計図)を元に,工業用粘土を用いて製作される実物大またはミニチュアの模型のことです。

 しかしなぜ,デジタル化の進む最中に手作業があるのでしょうか?

 その答えはこちらの記事にて解き明かされています。
 デジタル全盛時代でも車の設計に粘土を使う理由 どうして、手間のかかる工程を踏むのか?
 (日経トレンディ 2017年12月2日)

▲マツダブランドスペース大阪にて展示されている「クレイモデル」

 こうして「クレイモデル」が形作られるまでの過程を見ていると,プラモデルをベースに「クレイモデル」として自分の思い描く理想の形に製作したらどうなるだろうか?という疑問が浮かび,実行してみることにしました。

 そこで選んだキットは,タミヤ1/24 フォードGTに教わる「組まなきゃわからんカタチの秘密」(超音速備忘録)にて衝撃を受けたキット「タミヤ 1/24スポーツカーシリーズ No.346フォードGT」です。

 空気力学の賜物である複雑な車体形状があっという間に立ち現れる様は,ルービックキューブの6面に散りばめられた色が揃った時の喜びに似ており,まさにこのキットの醍醐味と言えるでしょう。

 そうして出来上がったボディをタミヤ瓶ラッカー 「ライトサンド(LP-30)」を用いて塗装すると,先程までプラスチックであったそれは24分の1の「クレイモデル」と化しました。

 ここまで来れば,車として機能するために必要なハンドルやタイヤ,エンジンを添えると,このボディの空気力学が本領発揮されるのです。

 ですが,この車両はモックアップ。せっかくなので左ドアを切り取り,車内を見やすくしてみました。するとどうでしょう。

 左右対称が崩れることによって,陰影に深みが増しました。

 まさに冒頭に引用した「陰翳礼讃」。

 こうして意図的に生まれた影によって,この車のボディの端麗さが際立ったのではないでしょうか?

 このように実際に「クレイモデル」と捉えてプラモデルを製作してみると,表面的な排気量や最高速度,乗車人数といったデータだけでなく,どのような過程を辿って市販化されたのかなど背景を見ることでより深く理解することが出来たと実感しました。

 こうして表面的な情報だけでなく,背景を知ろうという姿勢は先入観や思い込みを取り外す上でも重要な姿勢ではないでしょうか?

 最後に,この姿勢にピッタリのフォード社の創業者ヘンリー·フォードの格言がありましたので,添えさせて頂きます。

If there is any one secret of success, it lies in the ability to get the other person’s point of view and see things from that person’s angle as well as from your own.

『成功の秘訣というものがあるとしたら、それは他人の立場を理解し、自分の立場と同時に他人の立場からも物事を見ることのできる能力である。』

空韻
空韻

2001年生まれ。大学にて初等教育を専攻。デザインや建築への興味を活かして,これまで,そしてこれからの「教えるとはなにか」を日々探求,問い続けています。