公園を這いつくばってVR。プラモでわかる「ホントの海戦」

 今度公開されるトム・ハンクス主演の映画に合わせてってことなんでしょうが、早川書房からセシル・スコット・フォレスターの『駆逐艦キーリング』が新訳版としてしばらく前に発売されました。この本、軍艦が好きな人からは面白いと聞いていたものの、絶版になっててどこにも売ってなかったんですよね。これ幸いということで、おれも買って読んでみました。

▲旧版と同じ、生頼範義(おおらいのりよし)先生の表紙画が死ぬほどカッコいいぞ

 『駆逐艦キーリング』の時代設定は(おそらく)1942年の3月ごろ、第二次大戦真っ只中です。ドイツと戦うイギリスに向け、アメリカからは大西洋を横断して大量の物資が輸送船で送り込まれました。一方ドイツは黙って見ているわけもなく、Uボートという量産型の潜水艦を放って輸送船狩りを始めます。それに対抗するために、連合軍は手元の軍艦を集めて輸送船団に随伴させ、護衛の任務を与えます。

 主人公ジョージ・クラウス中佐は、とある輸送船団の護衛艦隊に参加するアメリカ海軍の駆逐艦”キーリング”の艦長兼、4隻からなる護衛艦隊全体の司令官。つまり船団に参加している多数の船と、3000人の乗組員全員の命を預かる立場です。勤勉実直で真面目一徹、それなりに海軍でのキャリアはあるものの長年少佐で足踏みし、しかも実戦経験はないクラウス。そんな彼と彼の指揮する艦隊が、不幸にもUボートの群れに突っ込んでしまいます。無事の離脱を目指すクラウスの丸2日間の激闘を綴ったのが『駆逐艦キーリング』なのです。

 小説の中ではこのクラウスの奮闘がず~っと描かれるのですが、まあこれがマジで大変。海の中に潜んでいて目に見えないUボートとの戦いはソナーとレーダーを頼りにするしかなく、「あのへんにいるのではないか」「この状況だったらどっちに移動するか」「味方の船とぶつかりはしないか」というのを瞬間ごとに見極め方位と距離を計算しながら、自艦や他の艦の行動を決めて的確な指示を出す必要があります。目隠しをして鬼ごっことかくれんぼと詰将棋をするようなもんです。

 さらにクラウスは管理職なので、自分の船の乗組員に対しても気を配ります。ナメられてはまずいのであくまで冷静で平板な態度を心がけつつ、内心は「今の言い方はまずかったかな」「こいつ緊張感ねえな」と心配したり怒ったりし、それと同時に部下のミスは「こいつはこういう状況だとビビって下手を打つな……」としっかり記憶。交代制の乗組員たちを休ませるときはしっかり休ませ、いざという時に最高のパフォーマンスが出せるように心を砕きます。どれもこれも、おろそかにすると自分や自分の船だけではなく、船団全部が全滅する可能性があるので必死です。

 加えてクラウス自身の実戦経験のなさも、彼の心労の原因になります。仲間として戦っている護衛艦隊はイギリス、ポーランド、カナダからの寄せ集めで、イギリスやポーランドのクルーたちは皆すでに実戦経験済み。そんな国籍の違う仲間たちに対して、ちょっと階級が上だっただけで実戦経験皆無のクラウスが指示を飛ばすことに……。想像するだに気まずい! 劇中で何度もクラウスは「他の国の連中にウザがられてないかな……」と内心で反省します。

 そんな管理職の辛さと海の上の殺し合いのシビアさが詰まった死ぬほど忙しい仕事なので、クラウスは段々ボロボロに……。48時間ずっと立ちっぱなしで飲まず食わず、たまにサンドイッチを食べられたと思ったらトラブル発生、食べかけを手に持ったままサンドイッチの存在を忘れ、船が揺れた時に握りつぶしちゃって「あ、俺今パン持ってたわ……」と思い出す始末。第二次大戦の大西洋での戦闘がどんだけ大変だったか、骨身にしみて理解できます。とても面白い小説なので是非読みましょう。

▲またしてもエアコンの室外機の上から失礼。Uボート(右ふたつ)の模型って、なんか薄くてすごいですね(こうして海面より下をぶった切った模型を「ウォーターラインモデル」といいます)

 で、こういう小説を読むとアメリカの駆逐艦のプラモとかUボートのプラモとか欲しくなるんで、サッと買ってきてサッと組み立ててしまいました。キーリングは「マハン級」という種類の駆逐艦だという設定があるんですが、このマハン級は全然プラモデルになってないので、とりあえず同じアメリカの駆逐艦であるタミヤの1/700 ハムマンで代用。まあ、だいたいこんなもんってところで満足。UボートはハセガワのⅦ型とⅨ型のセットです。

▲ちっちゃ!! Uボートってこんなちっちゃいの!?

 そんで完成したのはいいんだけど、1/700のUボートってめっちゃくちゃ小さい。手のひらに乗るというか、指よりちょっと長いくらい。駆逐艦もUボートよりは大きいですが、どっちにしろ手のひらサイズです。こんなにちっちゃい乗り物に乗って、あんなだだっ広い大西洋で戦ってたのか……。そもそもこんな小さい乗り物、荒れる船の上から目視で見えたのか? 見えたとしたらどのくらいの大きさに見えるのか? 疑問ですよね?

▲ここがおれの大西洋だ!

 ということで、近所の公園にやってきました。今からこの公園は、1942年の大西洋の真ん中らへんということになります。

 『駆逐艦キーリング』の「水曜日 午後直 一二〇〇~一六〇〇」の章で、キーリングが浮上したUボートを発見、搭載している砲で攻撃を加えるシーンがあります。この小説では基本的にUボートは常に海に潜っているんですが、この場面は珍しく水上での殴り合い。『駆逐艦キーリング』は「駆逐艦とUボートがどういう距離でどういう位置にいるか」が常に書かれている小説なんですが、このシーンでの会敵距離は約900m。キーリングの右前方45°くらいの位置にUボートが浮上したと書かれています。この距離を700で割ると大体1.3mほどなので、歩幅の長さを元にしてざっくりそれくらいの位置にキーリング役のハムマンとUボートを置いてみます。

▲とりあえず地面に置いてみる
▲大西洋は広大なのでどこにもピントが合わない
▲「いました! 潜水艦、右舷側!」
▲いた~!! Uボートだ~! 遠い!! 画像がジャギジャギになる!

 そして地面にベタッと伏せてキーリングのブリッジ付近からUボートを見てみると、これが予想以上にちっちゃくて遠い! しかも実戦では敵味方ともに波で揺れまくり、視界も定まらないわけです。この時キーリングは15発撃って命中弾を与えられなかったのですが、そりゃ仕方ない。目視じゃ当たんないよこんなちっちゃいマトに! あと、映画で軍艦の高いところには展望台に置いてある100円入れて見られる望遠鏡みたいなのがたくさんついてるのも見たことあるんですが、あの望遠鏡の存在意義がようやく理解できました。肉眼で見つけるの、ムリ!! 「スマートで、目先が利いて、几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」とは言いますが、水兵は几帳面で目が良くて気が強い奴じゃないと務まらない仕事なのが体で理解できました。

▲上空1155mから見るとこんな感じで、Uボートの位置も丸わかり。そりゃ護衛空母たくさん作るわ(写真は砂の色を青っぽく画像処理しています)

 おれの目の高さは大体165㎝くらいなんで、立った状態からの視界はおよそ高度1155mからキーリングとUボートの戦闘を眺めている感じになります。この高さから見れば一目瞭然。Uボートの姿もキーリング(まあハムマンなんだけど)の位置関係もしっかりわかりますし、もっと遠くにいるUボートに対しても、上から「あそこにおるで!」と味方に警告することができそう。『駆逐艦キーリング』には岡部いさく先生の丁寧な解説が巻末に収録されており、そこには「飛行機を乗せた護衛空母が輸送船団の防御を担当するようになると、Uボートがめっちゃ不利になった」と書いてあったんですが、なんで不利になったのかよくわかります。丸見えだもんな。

 というわけで1/700の軍艦なら、こんな「VR駆逐艦キーリング」みたいな遊びも簡単にできちゃいます。おれは床がほとんど見えない家に住んでいるので公園に行った(そして死ぬほど蚊に刺された)けど、みなさんは自宅で床に船を置いて上から見下ろして、「なるほど~急降下爆撃機のパイロットから見ると戦艦ってあんなに小さいのか!」とかやってみると超面白いです。あと『駆逐艦キーリング』も今のうちに買って読んどくと原作未読で映画を見ちゃった人にドヤれますので、是非とも読んでみてください。読んだら絶対駆逐艦の模型が作りたくなるので、フレッチャー級のキット(映画ではキーリングはマハン級じゃなくてフレッチャー級という設定になるそうです)もついでに買っとくのがオススメですよ!

■駆逐艦キーリング〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

しげる
しげる

ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

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