あなたは塗料を「名前」で選んでいますか、それとも「色」で選んでいますか?

 外出もままらならい日々なので、じっくりと取り組むプラモを選ぼうと思い、タミヤの1/32コルセアをストックから引っ張り出してきた。説明書で指定されているのはアメリカ海軍所属の2色に塗り分けられた機体なのだが、僕がこのコルセアを買ったきっかけはイギリスで実機が飛ぶのを見ていたく感動したからだ。

 機体の全面が濃紺で、機首のエンジンカウルだけが黄色。これなら機体の上下面を塗り分ける必要もないし、ドンピシャの紺色を機体全体にバーっと吹けば完成じゃん、と思ったので、わざわざカナダから似たマーキングを再現できるデカールも取り寄せた。

 どっこい、このネイビーブルーの色調というのが大問題だ。GSIクレオスからはズバリ「ネービーブルー」という塗料が発売されているが、案外これは黄色みがかった、少し緑色っぽい印象を与える色調になっている。そういう印象に仕上げたい、という人にはマッチするかもしれないけれど、僕が見たコルセアは(それが戦時中の色に忠実なのかどうかは知らないし、少なくとも自分がこの目で見た印象では)もっともっと青の強いイメージだ。タミヤのエアーモデルスプレーにも「ネービーブルー」はラインナップされているけど、タミヤから発売されているスプレーは後処理の種類によっては塗膜がダメージを受ける例がある。また、こちらもネットで使用例を見てみると、深く艷やかな青というよりもしっとりと落ち着いた、優等生っぽい色に感じられる。

 色というのは周囲の環境によって大きく変わって見えるし、写真を撮ってからどう処理するかによっても大きく見せ方を変えることもできるものだ。自分が見せたい色は、自分で選ぶしかない。誰かがネービーブルーですよ、と決めてくれる色も便利だけれど、自分の印象と違うなぁと思ったら、自分の印象に近い色を作るか、他の名前の塗料の森に分け入っていくしかない。

 時節柄、模型店で塗料の棚にかじりついて片っ端から瓶を裏返してその色調を吟味することもできないので、インターネットで探したガイアノーツの紺色系の色をまとめて注文することにした。

 ガイアノーツはミリタリー系よりもキャラクターモデル向けに調色された塗料をたくさんラインナップしている塗料メーカーである。上に並べたのは、左から鉄道模型用の青15号(電気機関車に塗られている色)、バーチャロンカラーの風群青(”景清”に使われる)、マーズディープブルー、マーズダークブルー(ともに”テムジン747J”などに使われる)の4色だ。

 よく振ってからフタを開けて、中を覗き込む。マーズダークブルーは思ったよりも赤みが強く、”ダーク”と銘打っていながらやや白さを感じられる紫色系の塗料だと感じられた。フタの色から感じる印象としてはもっともコルセアっぽいと思われたので、これは意外だった。

 ついで残る3本を開けて見比べるが、言ってしまえばどれも濃紺であり、甲乙つけがたい。色覚というのは色が持つ絶対値とはまったく異なり、自分を信じるには実際に塗ってみた印象を信じるしかない、ということに気付かされる。

 セブンイレブンでもらうスプーンは、もっともなめらかな曲面を持ったプラスチックのテストピースとして限りなく有用である。溶剤で適切な濃度に薄めた3色をエアブラシで吹付け、その色味を確認する。

 風群青は強烈なバイオレットだし、マーズディープブルーはいわゆる絵の具の青のような、シアンにすこしだけ黄色みを足した印象。どちらもツヤありだ。そして青15号は、黄色みがやや強いが、いわゆるネイビーブルーよりも深く沈んだ青に見える。惜しむらくは艷やかな機体を作りたいという欲求に反して、この3色のなかで青15号だけが半ツヤの塗料になっていることである。

 艶をブーストし、青15号に感じられる黄色みを少しだけ弱めるためにGSIクレオスより発売されている「色ノ源〈イロノモト〉 シアン」を追加し、これをコルセアの基本塗装色と決めた。

 3/4ツヤくらいに仕上がった表面に、これまたGSIクレオスの「Mr.プレミアムトップコート<光沢>(スプレータイプ)」を重ねて表面のツヤを作っていく。

 かくして、自分が選んだ色をまとったコルセアが、目の前に姿を現した。この納得感は、おそらく「ネービーブルーの機体だから、ネービーブルーという名前のを塗ろう」と決めていたら得られなかったものだろう。

 もちろん、このテキストは塗料メーカーが提示する色の色調に疑義を挟むものではない。それぞれの塗料は、適切なリファレンスに当たり、模型に塗ることを考えたチューンがなされていることは間違いない。アニメやゲームのキャラクター用に開発された色も、当然現場のスタッフや資料に忠実である。ただ、自分が見た色が市販の塗料にドンピシャで当てはまることがない、というのもまた、頻繁に起こることだと思う。そんなときは、塗料の名前を見るのではなく、瓶の中にどんな色が入っているのか、自分で探していくのも楽しい作業である。

 意外な名前の塗料が、意外な使い道を秘めている。それをもしあなたが発見すれば、それはあなただけの持つリファレンスであり、プラモの仕上がりをあなただけのものにするレシピとして機能してくれるはずだ。

■タミヤ 1/32 エアークラフトシリーズ No.27 ヴォート F4U-1D コルセア/16,280円(本体価格14,800円)

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からぱた
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模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。