
こんなに小さな船を作るのに、でっかい大西洋のことを考えることになるプラモデルです。アオシマの「フラワー級コルベット」は、箱を開けたときと、その中身について調べたあとで、ずいぶん印象が変わります。コルベットが2隻、Uボートが2隻、飛行機は翼を開いたものと畳んだものがそれぞれ2機ずつ。パピコみたいに誰かとはんぶんこできる内容が、まずうれしい。
主役のコルベットは、ふっくらした船体だけでもかわいらしく見えます。その上に載る甲板には錨の鎖や小さな突起がびっしりで、格子状の部品にはちゃんと隙間が抜けています。マストもシャキッと細い。パーツを見れば見るほど、切り出して組み立てたくなる。このコマゴマしたものを船体に載せていったら、さぞいい眺めになるだろうと思うわけです。

もとは2018年発売の「英国海軍 重巡洋艦 エクセター 大西洋船団護送作戦」に付属していたコルベットが、今回は主役になって再登場しました。ただ、箱の中にはこの船の来歴を説明する文章がありません。組み立て方と色は書いてあるけど、どこを航走し、何をしていた船なのかはわかりません。せっかくこんなに楽しそうなものが目の前にあるのだから、もう少し知りたい。メーカーの商品ページを読み、そこから調べてみることにしました。

フラワー級は、捕鯨船の設計をもとに生まれた対潜水艦の切り札でした。小さな造船所でも短期間に数を揃えられる船に、潜水艦を探す装置や爆雷を積む。沿岸での護衛を想定した船は、やがて大西洋を渡る船団にも付き添うことになります。彼らが守るのは、イギリスに食べ物や燃料を運ぶ商船。その輸送をドイツの潜水艦が妨げようとするので、商船を集めて船団を組み、軍艦が護衛したのです。

実物でも全長60mあまり、1/700ならたったの約9cm。遅い船団では、カナダからイギリスへ渡るのに約20日もかかりました。荒れた海を進みながら、いつどこから近づいてくるかわからない潜水艦に備え、その航海に付き添い続ける。護衛の成否は、商船を目的地まで送り届けられるかで決まる。この長さの船に乗って、その仕事をしていたのかと思って船体パーツを見直すと、かわいらしい丸みにも健気に波を受ける姿を想像できるようになります。

カラー塗装図に載っているのは「スパイリア」と、その生涯の大半をカナダ海軍で活躍した「スノーベリー」。グレーの船体に青や緑の直線的な迷彩模様が入っていて、なんだかオシャレです。艦橋まわりの部品にも違いがあり、それぞれの作り分けが指示されています。並べれば色も形も少し違う2隻になるという寸法。

いっしょに入っているUボートは、商船を狙う側の敵役です。Uボートはドイツの潜水艦の呼び名で、同梱されているのは大西洋の通商破壊で主力となったVII C型で、約570隻が造られました。フラワー級と並べると、その間や向こう側に、物資を満載した商船の姿まで欲しくなります。そういやハセガワのUボートには撃沈された商船のプラモデルが入っていたな……。小さな軍艦と潜水艦が2隻ずつ入った箱には、もっと大きな船たちの航海をめぐる関係が入っていたのです。

このUボートも、まるで魚の骨のように細くてシャープなパーツが用意されています。横腹にずらりと並ぶ穴は、乗員がいる丈夫な船殻の外側に海水を出入りさせるフリーフラッドホール。それがキレイに並んでいるさまがちゃんと彫刻されています。当初のVII C型は水上をディーゼル機関で走り、潜ると蓄電池で電動機を回す船でした。船底まであるフルハルと水面から上だけを再現したウォーターラインを選べるので、海面に姿を現したところも、船全体の形も楽しめます。

さらにフェアリー・アルバコアという、複葉の艦上雷撃機が4機。指先ほどの胴体に、翼の細かな凹凸まで刻まれているのがたまりません。この飛行機が発艦する場所として想像したいのは、箱に入っていない空母です。実例として、1942年3月、ソ連との間を行き来する北極海船団を援護する本国艦隊には、空母ヴィクトリアスがいました。そこから飛んだアルバコアはドイツ戦艦ティルピッツを追跡し、3月9日には雷撃を行っています。

商船を脅かすのは、海中の潜水艦ばかりではありません。海上のさまざまな脅威に備えるために、空母から飛行機が飛んでいく。コルベットのそばにこの飛行機を置くと、船団の近くで護衛する船と、遠くの敵艦を探して攻撃する航空隊、それぞれの持ち場が広がりを持って想像できます。翼を畳んだ姿からは駐機する飛行甲板が。翼を開いた姿からは飛んでいく先の空が見え、空母や戦艦といった模型にも手を伸ばしたくなるちいさなきっかけになるはずです。

海や空は広大で、これらをジオラマのようにひとつの戦闘場面にまとめるのはかなり難しいはずです。だから、机の上で両者のフォルムの違いをじっと見つめながら、波や暗闇や、何日も続く航海を思い浮かべましょう。コルベットの船団護衛を扱った記録映画『Corvette Port Arthur』がカナダ国立映画制作庁のサイトにあるので、そこに映る海や船上の人を手がかりにすれば、その解像度はうんと上がるはずです。

二人で分け合えば、ひとりぶんはコルベット1隻、Uボート1隻、飛行機2機。せーので作って、できあがった船を持ち寄る。それまでに読んだことや見つけた写真の話もできたら、とても楽しい知的な冒険になります。小さくて地味に見えるモチーフの詰め合わせに見えるかもしれませんが、そこから広がる大西洋のドラマは大きな軍艦にひとつも劣るところはありません。箱に入っていない商船や空母、その船たちの間にある距離まで想像できるのが、このプラモデルのおもしろさだと言っていいでしょう。