
乳白色のプラスチックボディ。クリアの風防。メッキのサスペンションアーム。スプリング、メタルシャフト。エッチング製ラジエーター、ディスクブレーキ。アルミのエアファンネル。ゴムチューブにビニールチューブ、被覆線。メッシュにゴムタイヤ。マテリアルの多様性によって生まれる歓喜がそこにはあった。タミヤの1/12ホンダRA273を作ってみると、F1マシンの機能美というか構造美というか、工業製品的な美を模型として実直に表現したプラモデルという印象を強く受けた。だから多種多様な素材の風合いを残したくてコンクリート打ちっ放し仕上げよろしく、塗装せずに接着剤だけで竣工させた。決して簡単な工程ではなかったけれど、力強さむき出しのマシンが手に入って大変に嬉しかったのだ。

本キットの初版は1967年。近年のプラモデルのように、ピタリとパーツが噛み合う快感や、間違えようのない親切な接着シロはない。しかし、エクゾーストパイプの三面図をはじめ、現代的にアップデートされた説明書は整然としていて見やすく、ハッキリ意図が伝わる。そしてCADもスキャナーも無い時代に、取材力と観察眼によって設計、金型加工、射出された、エクゾーストパイプの絡み合う構成と造形は見事と言うほかない。ところで筆者の本職は施工管理技術者、いわゆる現場監督なのだけれど、その視点から見るとタミヤというメーカーはまるで一流の建築設計事務所であり、同時に大手の建築資材メーカーに見えてくる。そう考えると私は施主であり、プラモデルの施工管理者であり、手を動かす職人なのだ。え!?ご安全に!

施工管理者は予算と工期と手間を考慮しつつ、施主の承諾を得られれば施工方法を変更することができる。「ボディはTS-7レーシングホワイトでの塗装指示となっていますが、プラスチックの色を活かした素地仕上げとしてよろしいでしょうか?」脳内定例会議で質疑を挙げる。施主である私はもちろん「OK!」の二つ返事。なんと物分かりのよいお施主様なのでしょう。

人の手による原型の持つ雰囲気というか、全体的に味のあるディテールとフォルムを持っていて、おおらかな美しさがある。多少の歪みやファジーな嵌合も見受けられるので、職人になったつもりで調整を繰り返して組み立てていく。しかし施工が進むとハンドルとタイロッドは連動するし、後輪のユニバーサルジョイントが角度を保ったまま滑らかに回転するしで、本当に感心する。小さなF1マシンが出来ていく。

キットのいちばんの見どころであるエンジンは、様々な素材が集合する最難所だ。燃料パイプである12系統のビニールチューブをインジェクションポンプの小さなパーツに差し込むのだけれど、説明書通りでは物理的に収まらない。どうしたらいいんだと思ってタミヤのHPで作例を調査すると、そもそもチューブを使わず細い鉄線か何かで完成させてある。何だと!しかし建築の世界では設計図通りに施工が完遂するなんてことはあり得ない。そこをどうにかするのが施工屋の仕事という訳です。

スケール的にも正解であろう鉄線を用意してもよかったけれど、今回はあえてメーカーが提案してきたオーバースケールなチューブをそのまま使うことにした。光が反射して大変に綺麗なのだ。幸い、今は昔と違い接着剤も種類が豊富。瞬間接着剤の促進剤もある。説明書の手順を変更し、チューブを切り刻んで細工し、拡大した穴に瞬着で1本ずつガチガチに固めて力技でクリアした。

いくつかのパーツは完璧に噛み合わなかったけれど、幾つものマテリアルの手触り、工夫を試みた時間のすべてがカタチになった。アルミ削り出しエアファンネルの輝き。驚くほど彫りが深くシャキっとしたゴムタイヤのトレッドパターン。生き物のように絡み合うチューブ、コード、白磁のようなエクゾースト。これらは大自然の美しさの対極に位置するであろう、工業製品的美しさの森林であり枝葉だ。半世紀以上前のホンダ&タミヤによるモノづくりの情熱が今なおパッケージされ、モノを作れ作れと完成後も私の魂を焦がしてくる。熱いプラモデルだ。