そのシャープネス、凶暴につき。
出渕裕によるコミック作品『機神幻想ルーンマスカー』より、「機械神〈ルーンマスカー〉スレイプニール」が海洋堂よりプラスチックキットとして今月発売されます。プラモデルを触ったことがある人なら、上の写真からパーツの尖り具合がわかるはず。ツノに入った螺旋状のディテール、艶めかしい曲面とエッジに目を奪われます。このプラモ、完成後は動かないし全体はわずかに青みがかったグレー単色のプラスチックです。しかしそれがいい。そうである理由をみんなに味わってほしい!
原型を作ったのは谷明(たに あきら)という人。模型にちょっと詳しい人は「天才」の名をほしいままにするすごい原型師であることは知っているはずです。でもそうじゃない人は名前も知らないかもしれません。なぜならひと昔前まで、天才の造形は原型をそのまま複製して頒布する「ガレージキット」という形態でしか、その造形の真髄を味わうことができなかったから……(もちろん、食玩や一部の完成品フィギュア、プラスチックモデルなどでも「原型/谷明」を楽しめましたが、これほど体積が大きなものは皆無だったと言っていいでしょう)。
しかし、最近はマックスファクトリー製のサーバインなど、「プラモのことなんも考えてなかった造形(たとえばガレージキットや昔のソフトビニールキット)をプラモデルにする」という機運が生まれつつあります。これは手で作られた原型(あるいは製品)を3Dスキャンしてポリゴンデータにしてから金型を作るためのCADデータを作る……というデジタルなプロセスの進化により、ここ数年で急速にクオリティが上がった分野です。
今回のスレイプニールがどんなプロセスで立体化されたかはわかりませんが、「原型師の作った造形がそのまま無可動単色の彫刻としてプラスチックモデルになっている」ということがめっちゃ大事だし、それを誰もが普通の模型店で買って、普通にプラモデルに使える道具で組めるというのがものすごいことなんですよ。天才と呼ばれる人間の造形が、ニッパーと接着剤さえあれば目の間に現れるということの素晴らしさ。
しかもね、指先に刺さったら怪我するかもしれないとか、そういう気配りなしの、問答無用の激シャープな造形。尻尾の先の毛の流麗な流れと、その先端のトキントキンに尖った彫刻から「原型師が思った通りの彫刻をそのまま受け取っている」ということがダイレクトに伝わってくるわけです。安全基準とか製造上の都合でサキッチョを丸めたりしない。尖ってるもんは、バキバキに尖った状態でお届けします。産地直送、味そのまんま。危険で、甘い。
プラスチックモデルだから薄いパーツを恐る恐る合わせる……なんてこともなく、どういう原理なのかひたすら分厚いパーツがあったりして、案外組み味はドシン&バシンとダイナミックな感じなんです。「きれいな造形は組むのも難しいんでしょ〜?」とか言わずに、ニッパーと接着剤だけ用意してください。塗らなくてもわかります。ただ切って貼るだけで目の前にすごい彫刻が出現するの、けっこうすごい体験です。それはウォーハンマー的でもあり、サーバイン的でもあるんですが……。
機械と有機体が合体したような馬の首。異なる曲面をもった装甲板が4枚重なっているところに、左右二枚合わせで作ったたてがみを取り付けます。こんな組み合わせ、正直20世紀のプラモデルだったら絶望的に合わないのが当たり前だったのです。21世紀になっても、10年前を振り返ればイギリスのゲームズワークショップ以外にちゃーんと実現できている会社なんて、なかったんです。いやいや、本当に合うの?
なんら問題なく、しっかりと隙間なくくっつきます。接合ラインに流し込みタイプの接着剤を流せば、天才が思った造形が誰の目の前にも、確実に現れる。工作の民主化。造形の民主化。プラスチックという、切るのも貼るのも塗るのも容易な素材で、どんな人でも素晴らしい彫刻が組み立てられていくさまを楽しめる。じつはみなさん、いま大革命のさなかに生きているんです。動かないこと、でもそこに強烈な意思のこもった造形があること。これを応援すれば、いつかすべての「かっこいいもの」が、プラモデルになるかもしれません。その一歩を、まずはこの品で。みなさんも、ぜひ。