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良いプラモデルを育むのは、プラモを楽しむあなたです。

▲ランナーの記号、よく見てください。

 ドラゴンというメーカーの小さな戦車模型を組んでいて、ひさびさに「これ、難しいな……」という声が漏れました。ここで私が感じている「難しい」には2種類あります。

 ひとつは単純に「パーツが米粒より小さくて、切って掴んで貼るのがたいへん」というもの。これは例えば、先の尖った切れ味のよいニッパーやピッタリと合うピンセットなど、適切な道具を選ぶことで解決できます。さらにこれらを操るために「器用な手先を手に入れる」というのも努力でカバーできます。

 もうひとつは、「説明書の記述が間違っている」「そもそも設計ミスがあるので、指定された位置にパーツが取り付けられない」「『A』と書かれた異なるランナーが2枚入っているので、『A-1』という全く違うパーツがふたつある」といった難しさです。

 前者はの歯ごたえはプラモ作りの面白いところですが、後者は単純に「商品の不具合」です。プラモデルは、「組み立てるとパッケージに示された完成品に近しいものができあがる」というメーカーとユーザーの約束を買うようなものです。接着した跡を消したり塗装したりというスキルでどれくらいの出来栄えになるかは人によって異なりますが、ひとまず「完成形から逆算された形状のパーツが入っていて、それを組み立てる手順が示される(ユーザーは、それを信じて組み立て、自分の模型に仕立てていく……)」ということが前提にあるはずです。明らかにエラーのある製品を「上級者向け」などという言葉でごまかしていては、いけません。

ホビコレ ドラゴン 1/72 WW.II アメリカ軍 M4A3 105mm榴弾砲搭載型 HVSS シャーマン

▲車体後部のデフレクタ回りは組み付け方法も寸法もかなり曖昧で、モデラーの「慮る力」が試される……。

 説明書のミスを自分で訂正したり、パーツの形状を加工したり、実物がどうなっているかインターネットで検索しながら「おそらくこうなっているのが正しいのだろう」というのを探り探り組み立てていきます。これは、私がいままでにたくさんのプラモデルを組んで「不具合にどう対応するか」というスキルを身に着けているからできることです。

 ところで、私のように同じようにさまざまなトラブルをねじ伏せてきたモデラーたちはこうしたキットに対して「ドラゴンというのは昔からそういうメーカーだ」「ちゃんとパーツのカタチを見れば迷うことはない」「そこを創意工夫でカバーするのがプラモデルの醍醐味だ」と評することがあります。それって、本当でしょうか。

 プラモデルの欠点を汚い言葉で罵って「みんな、このプラモは組めないぞ!」と道端で叫んだところで、目の前のプラモがいきなり組めるようになったりはしません。それをやったところで「こっちのほうがもっとひどいプラモだぞ」というマイナス方向の大喜利が始まるのがせいぜい。もう少し建設的に見える「ユーザーが自分でなんとかすればいい」という言葉も、そもそも組んで完成させられることが前提のプラモデルという形態に対する不信任であり、突き詰めて考えれば、組み立てキットの存在意義そのものを揺るがす態度だと私は思います。

▲組み付ける順番を間違うと激しく難度の上がる足回り。緻密さは本当に素晴らしいよ。

 パーツを説明書通りに貼れるか、色をうまく塗れるか、汚し塗装がリアルになるか……というのは、ユーザーの仕事ですから、その人が持っている道具とスキルがモノを言います。その土俵が民主的で、誰にでも開かれているのがプラモデルのいいところです。

 でも、説明書のとおりに組めるものかどうか、キャッチコピーに書かれていることが本当に味わえるかどうかを保証するのは、どう考えてもメーカーの仕事だと僕は思います。

 スキルフルなモデラーがどんなプラモデルでも組んでしまえるからと言って、スキルのないモデラーに対しても「努力と根性でなんとかするのがプラモデルだ」とけしかける光景を見ることがありますが、それではいつまでたっても説明書のエラーは直らず、設計ミスを抱えた商品がお店に並び続けることになります。

▲難儀な組み立てと、素晴らしい仕上がり。欠点だけを見ても、長所だけ見ても、プラモの批評にはならないね。

 今回私が組んだキットは、工夫しながら手を動かしていくことでなんとか形になりました。まともに組むためにはメーカーのミステイクにいくつも対応しなければいけませんでした。でも、緻密で、ものすごい存在感があります。形状やディテールにも惚れ惚れします。でも、私はこのプラモデルを頭ごなしにダメなものと切り捨てず、「とはいえ、いいものだな」と思います。同時に組みながら感じた「ここは改善すべきだ」というポイントを丁寧に、冷静にメーカーに伝えることにします。

 いまはスマホもあるし、AIもあるし、自動翻訳のサービスもあります。メールを出すも良し、写真を撮って何がマズいのかをしかるべきところに綴るもよし。プラモはお客さんを選べません。だから、エラーのある製品をねじ伏せたり、誰にでも見えるところで強い言葉を使って罵ったり、組めなかった人を揶揄しても、明日のプラモは変わりません。「いいプラモ」を作るのは、あなたを含めたニッパーを握るすべての人だと、僕は思います。

ホビコレ ドラゴン 1/72 WW.II アメリカ軍 M4A3 105mm榴弾砲搭載型 HVSS シャーマン

<a href="/author/kalapattar/">からぱた</a>/nippper.com 編集長
からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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