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プラモデルを塗るために、赤い彗星のシャアが遺した色/GSIクレオスの「あずき色」をめぐる物語。

 あずき色のスプレーを買ったら、「赤2号」と書いてある。”あずき色”の名前はカッコのなかに入っているから、おそらく”赤2号”が本名なんだろう。俺はけっこう鉄道が好きなので、これが何を意味しているかわかる。国鉄時代に多用されたちょっと青みがかった赤。あれを赤2号って言うんだ。しかし、いまどきこのスプレーで鉄道模型を塗る人はあんまりいないだろうし、「そもそもMr.カラー(GSIクレオスの模型用塗料)に鉄道用の色なんてほかにありましたっけ?」と、しばし考え込む。

▲ヘッドライトの周りと窓の帯が「赤2号」だ

 「Mr.カラーには昔、赤2号以外も『鉄道模型用カラー』というのがラインナップされていたらしい」ということはわかったが、それ以上詳しいことはあまり手がかりがない。しかし、自分のなかにちょっと確証めいたことがあったので、GSIクレオスの広報担当者に詳しく話を聞いてみた。すると1970年代、Mr.カラーが1〜77番までしか存在していなかった頃に話は遡るという。

 「当時、Mr.カラーの#101~#118に鉄道色が設定されたんです。後にこれらの鉄道色はMr.カラー#81〜#98に再ナンバリングされたのですが、’70年代を経て着色済みの鉄道模型が主流になると鉄道模型用カラーの存在意義そのものが薄れていきました。’80年代前半にかけて鉄道色のラインナップが自然と淘汰されていくなかでも、よく売れている4色だけが名前を変えて生き残ることになりました。」

▲鉄道色が特別に101番からナンバリングされていた時代のカタログ(資料提供/GSIクレオス)
▲ナンバリングが通常色と統合された時代のカタログ。81〜98番までが鉄道色だ(資料提供/GSIクレオス)

 「それら4色の変遷としては、#101『赤2号』→#81『あずき色(赤2号)』に、#110『銀色』→#90『光輝シルバー』の後『シャインシルバー』に名称変更、#112番『黒色』→#92『セミグロスブラック』に。そして#117『灰色9号』→#97『灰色9号(ライトグレー)』を経て、再度『灰色9号』という名称に戻された、という記録が残っています。とくに#90は『光輝シルバー』から『シャインシルバー』に名称変更された際、当時少し暗い印象だった#8『シルバー』よりもギラギラした質感の塗料を目指して成分が調整された……というのを開発に関わった技術者が覚えているそうです。」

▲現在のMr.カラーカタログ。#81、#90、#92、#97と番号が歯抜けに並んでいるのがわかる。(資料提供/GSIクレオス)

 鉄道模型用カラーの多くが廃版になるなか、鉄道模型以外にも使える汎用性の高い色として、もともと蒸気機関車や貨車に使われることを想定していた半光沢の黒、そして白にかなり近いグレーの灰色9号、ギラギラとよく光る銀色はそれぞれ売上が堅調だったため、ラインナップに残された……というのは理解できる。しかしこの3つと違って明らかに個性の強い色が赤2号である。どんなジャンルでも使い勝手の良い他の三色とは違い、個性の強い「あずき色」が残った理由は、おそらくシャア・アズナブルの存在が大きな要因であるはずだ。

 「ご推察のとおり、’80年代に入ってガンプラブームが到来し、赤2号は『あずき色』としてシャア専用機の濃い赤の部分に指定されることが多かったのです。当時は発売中の塗料を混ぜてガンプラに塗られていたユーザーも多かったようですが、その後グンゼ産業(現・GSIクレオス)は正式にライセンスを取得し、専用色としての『ガンダムカラー』を発売します。そのなかで、あずき色は”調色なしでそのまま使える色”だったことから、通常のラインナップに定着したのでしょう」

 ハセガワのミニに、あずき色のスプレーを吹く。赤飯に入った小豆の色を思い浮かべていると、塗料のほうはかなり鮮やかで驚くはずだ。これがもともと国鉄特急や電気機関車を彩っていた赤であり、いまやそれらのプラモデルを目にすることもあまりないと思うと、なんだか愛おしい。この赤は、いまも生き延びる鉄道色のなかでもシャアの遺してくれた特別な色。シャーシに吹いたセミグロスブラックと「やあ、また会いましたね」なんて言葉を交わしているのかもしれない。

 カーモデルを作るときに当たり前のように使っているセミグロスブラック。その隠蔽力と落ち着いたトーンで最近にわかに注目を集めつつある灰色9号。そしてひっそりとバリエーションを支えているシャインシルバー。こんど模型店に行ったら、ぜひともMr.カラーの棚をじっくりと眺めてほしい。飛び飛びの番号を振られた「かつての鉄道色たち」は、いまも仲良く並んであなたのプラモを彩る出番をじっと待っているのだ。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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