タミヤのカラーのなかでもとびきり好きな色というのがいくつかあって、そうした色たちをひとつひとつ愛でたいなぁって。
何を書いても1ページ1ページが等価なウェブ模型メディアらしいと思いませんか。俺は思う。
飛行機模型を作るときに、無視すると完成が異常に速くなり、丹念に塗ればそこに実在感がぎゅぎゅっと宿る場所。それが着陸脚なんだよね。ツルッと速そうな飛行機のフォルムのなかで、複雑な形状の脚扉とそこからニョキリと突き出されたメカニカルな脚。
飛行機という危ういモチーフと安心できる大地を繋ぐのがタイヤです。飛行機、めちゃくちゃ速くてデカいのに、地上では小さな小さなタイヤでころころと動くことしかできない。
このタイヤを塗るという作業が本当に好きで、たとえば全部がグレーのままの飛行機を組んだとしても、ここがゴムの色になった瞬間、なんだか全体の解像度がバリッと上がるんですよ。グレーのプラスチックの塊をホイールとタイヤに分ける。創世記の冒頭みたいじゃないですか。
タミヤのアクリル塗料にもラッカー塗料にもラインナップされているのがこのラバーブラックという色。文字通りゴムを表現したいときに使えるカラーで、少しだけ青みがかった濃いグレーでカサカサのつや消しになるのが嬉しいのよ。真っ黒では重たすぎるし、ただのグレーでもだめなんだ。この微妙な色調が「ゴムっぽさ」を演出してくれるっていうこと。
キンキンに尖った面相筆というのはタイヤとホイールの間にあるビミョーなフチに引っかかるから気持ちがいい。塗料の濃度が濃すぎればスムーズに塗れないし、薄すぎるといつまでたっても色が付かない。筆に塗料を含ませすぎればミゾを乗り越えてホイールがゴム製になってしまうし、筆がカサカサだとムラになってしまう。
この塩梅は体感することでしか身につかない類のもので、結局模型の塗装ってきわめて身体的な遊びなんだよなぁ、と思い出す瞬間だよね。
ホイールのフチに添わせた筆をクルッと一周、そこにやわらかなゴムの風合いが加わった。まるで自分が自分の力だけで、うまく真円を描けたかのように錯覚する。「あら、けっこう上手じゃない」と自分を褒めて、次の作業に移行する。
この瞬間の積み重ねこそが、プラモを楽しむ秘訣なんじゃないの、と思ったりしながら。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。