先日とある知り合いがプラモに挑戦するということで途中経過を聞いていたのですが、「塗装するときにパーツを持ってると手が汚れる」という発言をしていて腰を抜かしました。そりゃそうだ。絵の具を筆で塗ったり、スプレーで吹いたりするスポーツなので、パーツを手で持っていたら手が汚れる。
ワニ口クリップに棒が付いた「持ち手」で指先を拡張し、棒を持って塗るので手が汚れないという寸法。さまざまなメーカーから類似商品が発売されているが、ワタクシが死ぬほどオススメしたいのがこちら。
高い!猛烈な値段である。実売で1本80円。パーツを挟んでおくクリップ付きの棒にそんなに払う意味があるのか!? と怯んでしまうかもしれない。しかしこのペインティングクリップにはお値段以上のアドバンテージがある。
まず棒が金属製。硬い。しっかりとした剛性感が触っていてうれしくなるが、それ以上に「塗料が付いても溶剤で拭けばキレイになる」という利点がある。先端に挟んだパーツが少々大きくても適度な重量によってバランスが取れ、パーツの写真を撮ったりくるくる回しながら焼き鳥屋さんのように塗装しているときもイライラしないのだ。
先端のワニ口クリップは先端が細く、バネの力もかなり強い。ハイキューパーツさんに聞いたところ、このクリップは類似品でよく見られる既存品流用ではなく、プラモのパーツを挟むのに最適な形状をイチから設計。先端部が尖っている上に断面形が直角に近いため、僅かな出っ張りや奥まった部分の突起でもしっかりと挟み込むことができる。これは何度もバージョンアップを繰り返してこの形状に落ち着いたということで、その取り回しの良さはまさに「模型のパーツ専用」と言える。
金属棒とクリップの接続部はカシメ(金属板を曲げて棒を挟み込む方法)ではなく、圧入(棒に強い力をかけて筒にねじ込む方法)で仕上げられているので耐久性も抜群。1回買えば長いこと使える、という意味でちゃんとコスパが高い。
さて、これでパーツを掴んで塗装したあとはどうすればいいか。机にベタッと置けば塗料が机に付いてしまうし、ペン立てなどでは複数のパーツが接触して塗装面がダメになってしまう。
同じくハイキューパーツのペインティングベース(Amazonの商品名は誤字なのであしからず)。こちらも本当にウルトラオススメ。既存の棒付きクリップや細身の爪楊枝などを使っている人も必見だ。
無数に開けられた穴に棒を刺すことで固定しておくためのツールなのだが、材質がポリエチレンフォームというかなり硬めの素材なので、キュッと入れると棒はいっさいグラつくことなく、鉛直に静止してくれるのだ。グラグラする、棒が回転してしまう既存製品ではパーツ同士が接触してしまうアクシデントに見舞われることもあったが、これを導入したところ事故はゼロになった。
こちらもハイキューパーツさんに聞いたところ、このアイテムの製造方法は金型による成型ではなく、カットしたPEフォームにCNC(デジタル制御の旋盤)で穴あけ加工をするというめちゃくちゃ手間のかかった一品である上に、この素材は吸水性が極めて低いのだそう。たとえば塗装済みパーツをこのベースに固定したまま乾燥機に入れても水蒸気をほとんど放出しないため、光沢塗装にこだわりたいときなど(光沢塗装は水分と反応することでツヤが鈍ってしまう)に有用だ。
ここで私がよくやるテクニックをひとつだけ書いておこう。
「掴みどころのないパーツ」というのがたまにある。ピンやミゾがなくて、ツルンとした形状のパーツでどこを挟んでいいかわからない、というアレだ。
マスキングテープを5cmほどの長さに切って、片方の端をクリップで挟む。
粘着面が表に出るようにくるくると巻く。緩めに巻けば粘着面の直径が大きくなり、キツめに巻けば粘着面の直径は小さくなる。
挟むところの無いパーツでもこのとおり、面で貼り付けることができる。適当にパーツの端をクリップで掴んでしまうと塗り漏らしをタッチアップしなければいけないが、塗膜の段差や発色の差が出てしまって二度手間……となりがちなので、オモテウラをこうしてそれぞれ一回で塗ってしまったほうが結果的に素早く作業が終わる。
ということで、塗装用のクリップという「挟めればOK」みたいなものにもこんなコダワリが込められていると思うと、イイものを使ってみようという気になるもの。金属のひんやりとした硬質感を相棒に、塗装を楽しんでみてほしい。
みなさんも、ぜひ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。