クルマのプラモをマルっと塗ると、そのシェイプが明らかになる。

 私は『CONTINUE』という雑誌に連載を持っていて、ここでは「プラモをただ組み立てて、ふたつを並べるだけで楽しくなれる」というテーマを設けている。これは編集の人と決めたことで、作り方かたや塗りかたではなくて、「もけい」の持つカタチとか質感とか色の面白さをただ刺し身のように、パッと生で見せるのがいいんじゃないかという試みだ。

 ベルリンの壁の前にフォルクスワーゲンが停まっているというパッケージアートに惹かれて買ったドイツレベルのゴルフと、ベルリンの壁のプラモを並べたのが今売られているCONTINUEに掲載したネタ。ただ、どちらもグレーのプラスチックなのでどうしてもページの色気に乏しくなる。編集部に「なんとか色を付けたい」泣きを入れたが、「それは話が違うだろう」という返答。当たり前だ。

 「ベルリンの壁のプラモ」という妙な物体にはグラフィティデカールがふんだんに入っていて、これが異常に楽しい。世間一般に「落書き」とされることをやっても、プラモなら怒られない。そうだ、ウチには「プラモにも使えないかな」と思って買ったグラフィティ用のスプレーがあるじゃないか。

参考1/グラフィティカルチャーと鉄道模型の話(グラフィティデカールの楽しさ)
参考2/グラフィティ用のスプレー缶を買ってみる(グラフィティ用に開発されたスプレーの性能の話)

 編集部に「グラフィティつながりで、まるっと一色に塗るならどうか」と尋ねると、「それならストーリーが生まれるね」と同意を得られたので、じゃあボディだけでも塗ろうか……と考える。しかし、そこにもなんだか望まれていない「技巧(=それを持たない人からすれば、面倒なことに思える)」というものが忍び込む余地がある。ええい、窓もタイヤもすべて接着された状態でスプレーを吹いてしまおう。

 自分でも予測していなかったのだが、これは本当に驚くべき背徳感と爽快感に満ちた作法だった。現れたのは、クルマのフォルムだけがそこに確固として存在するという景色であり、すなわち「形を模す」という意味においてもっともプリミティブで、純粋なルックがそこにあった(もっと言えば、クレイモデルの如く、本来不可視に近い存在である「窓」も同じ色に塗り込められたことにより、クルマのシェイプというのは透明なガラスの面もボディのダイナミズムと接続しているのだということに、私は感動した)。

 クルマの模型をリアルに作るのはけっこうたいへんだ。しかし、こうして気ままにパーツを全部接着してしまい、ツヤのないスプレーでまるまる覆ってしまうと(サーフェイサーを吹かれた模型になんだかワクワクさせられるのと似た)そこにはミッチリとしたシェイプが存在したことに改めて気付かされる。

 見る距離、写真のパースの付きかた、表面の質感や透過率、魅惑的な細部のディテールに目を取られ、クルマのシェイプを塊として把握するというのは案外難しいことである(同じ車種のプラモでも、メーカーや時代によってカタチが大きく違うことがあるのは、そうした理由によるものだ)。

 組んで、まるっと塗装してしまう。もったいないように感じるかもしれないが、これは技巧的なものに左右されず、たくさんのクルマのプラモの形と戯れることができるひとつの方法として、みなさんにもぜひ一度体験してもらいたいと強く思うのだ。

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からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。