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HGUCジオングで改めて感じる「旧キット新キットの波打ち際/このガンプラのここがスゴい!

 ガンプラは全部良くできているので「出来がいいです!」と書けばだいたい終わりになってしまう……という前提でちゃんとガンプラを見ていこうという個人的な試み。今日はHGUCジオングです。2001年のガンプラですから当時産まれた赤ちゃんは大学4年生です。とんでもないですね。そして完成したジオングの写真はインターネットを検索すると数万枚は出てくるのではないでしょうか。実物(実物!?)は1個しかないと思いますが、プラモデルになると数万倍に増殖するというのがまずヤバいと思います。

 まずジオングはでかいMSなのでパーツも大きい。いや、大きくてもコマゴマと分割するのが「精密なガンプラ」ということになっている現代において、改めて22年前のHGUC版を眺めると「スジ彫りとかユニット構成とかで見せるんじゃなくて、あくまで色とシルエットをアニメで見た印象に極力近づけたいんスヨね」という空気感が伝わってきます。これを「なんか情報量が足りないな」と思うか、「アニメではこれ以上の線がなかったよね」と捉えるか、あるいは「アニメでは線が整理されているだけで、ホントはもっとディテールがミチミチに入ってるんですよ」と妄想するのか、ガンプラは人によって見え方がまちまちなのが不思議なところです。

 でも、スカートの内側のパーツには「裏返さないと見えないところに説得力があると安心するでしょ?」という目配せが感じられます。大小7つのスラスターノズルを受け止めるだけのメカモールドが入っています。リアルグレードのジオングでは「ディテールがバッキバキに入ったスカートの内側をあえてこっち側に見せるポーズを取れます」という方法論で我々に有無を言わさぬ納得感を突きつけてきましたが、21世紀が始まった頃は「完成したらまあ見えないんですけど、こういうことになっていると気分がよくない?」くらいの表現だったんだなぁ、と感じ入るわけです。

 いいなぁと思うのは、ロケットエンジンの韻を踏んだディテールだからリアルなのは金属色……とせずに、設定画に塗られた色に近い深緑のプラスチックで成形されたスラスターノズルたち。そのかわり表面には一般的なMSの小さいノズルではまず見られないような濃いめの凸凹ディテールを彫刻して現代的な解像度を演出しようとしているのがいい。

 劇中のシルエットやディテールや色彩から大きく逸脱せずに、組みながら感じられる「イマっぽさ」が2001年なりのフリーズドライ状態で今に伝えられている。古いキットも新しいキットもいいけど、その途中にはその時代のトレンドや空気感や「やりすぎないマインド」みたいな奥ゆかしさがあって、そのどれもがいまも手に入るというのが面白いなと改めて思うわけです。

 そもそも頭だけが胴体から分離してとんでもねェ強キャラの主人公機と「オートパイロットで相討ち」になるという演出が激ヤバいとガンダム最終話を見るたびに思うのですが(今見ても演出がナウすぎる)、こうやって外装をハメずに頭を組むと「キミ、70年代の永井豪先生的なロボたちとそこまで遠い存在じゃないんだな……」とビビります。ツノが枝分かれしていて耳に相当する部分にゴッツリ差し色が入ってるのに「リアルロボットじゃ!」というお題目のおかげで現代でもデザインがアップデートされリファインされ、緻密に細密にそれっぽくアレンジされ続けていることがなんだかおかしなことなのではないかと不安にすらなってきます。

 そこで外装をハメずに胴体を組むことにすると、これがまたなかなか奥ゆかしい。下半身がないけど状態を起こしてヌボーっと迫ってくるジオングの姿を表現するために腰と首に大きく反り返るための関節が仕込まれていて、HGUCという「シルエットと色分けに特化したシリーズ」でありながら結果的にフレーム構造が完璧に仕込まれていると言っても過言ではありません(これは腕や頭部が巨大であるため、その重量を外装ではなくフレームで支えようという配慮もあったのかもしれません)。

 22年めのHGUCジオングを組んでみると、可動や色分けに対する「サービス精神」と、アニメ劇中のシルエットを追い求めながら価格を高騰させない「抑制」とがせめぎ合う不思議な組み心地があります。いわゆる旧キットとも、カリカリの最新作とも違ったこの感触は2000年代初頭のガンプラ全体に通底するものかもしれませんが、図体が大きく「脚がない」という唯一無二の特徴を持ったジオングだからこそ、いっそうそれが際立ちます。

 ガンプラ、案外「ランナー状態」とか「組んでいる途中で何が起きているか」のレビューがないので、このジオングもかなり新鮮に楽しめました。さて、次は何にビビりましょうか。完成品をいくら見てもわからないビビリがこの世のプラモにはたくさんあります。その「途中」を取り出してみなさんも共有してください。nippperはいつでも原稿をお待ちしています。そんじゃまた。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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