プラモデルのスジ彫りツールに高い入手性とタフさ、そして見た目もカッコいいアイテムの登場です。これまでにもハイパワーなコンプレッサーや使い勝手の良いモーターツールなどプラモデル作りに好適なアイテムを送り出してきたRAYWOODから「スジ彫り用ツールの自信作をリリースするのでレビューしてくだされ」ということで「DULO タングステンブレードPRO」のサンプル一式が送られてまいりましたので、おそらく日本でいちばん模型用工具をレビューしまくっているであろうけんたろう君を招き、実際に使用してもらいました。
「DULO タングステンブレードPRO」はいわゆるタガネのような先端を持った工具で、ブレードの材質はタングステン90%/コバルト10%の合金。専用設計のアルミ製グリップを備え、先端の幅は0.075/0.1/0.15/0.2/1.0㎜の5種類がラインナップされています。上の写真はツールスタンド(別売り)にセットしたところですが、全金属製で見た目は重そうなのに、グリップがアルミ削り出しなので思ったよりずいぶん軽いのが第一印象です。
太めのグリップにイモネジで長いブレードを装着する構造になっているので、刃先は交換可能。同時に、作業中に先端を視認しやすいのが特徴です。スジ彫りって刃先の振る舞いをじっくり見ることがいちばん大事だからね……。スジ彫り用とはいえ、かなり高度のあるブレードなので背部分を使ってパーツ表面の凸凹やパーティングラインにカンナをかけるような作業にも使えます。
そもそもスジ彫りの専用工具に模型関連のメーカー各社がしのぎを削り始めたのは2010年代に入ってから。それまでは先端が尖った針のようなものでパーツ表面をガリガリとなぞることでスジ彫りを入れるのが当たり前だったのですが、溝の形状は当たり前ながらV字谷となり、深く彫れば彫るほど幅が広がってしまうという問題がありました。しかしキャラクターモデルでもパネルラインを縦横に追加する工作がトレンド化したことで、「好きな太さで安定したスジ彫りをしたい」というニーズに応えた製品が爆発的に増えました。先端が幅のごく狭いタガネのような形状になっている本アイテムは、一定の幅で深さのあるスジ彫りを得られるタイプの工具です。
けんたろう君いわく、スジ彫りに大事なのはガイドとなるテープ。これをパーツの表面に貼って定規代わりにすることでまっすぐのスジが彫れます。粘着性や太さ、柔軟性はテープによってまちまちなのでシチュエーションによって使い分けてください。
通常のプラスチックに一定幅のスジ彫りを入れるのは、「ガイドテープを使う/力を入れずに何度もなぞる」というのを守ればそこまで難しいものではないのだそう。けんたろう君によれば、「最近のガンプラなどで見られるちょっと柔らかい材質こそ、スジ彫りツールの真価が分かる」のだとか。柔らかい材質は刃の切れ味が悪いときれいに表面を掻き取れず、スジの底面がヨレヨレになったり両サイドに汚い”めくれ”が生じてしまうのです。
ツールの切れ味はけんたろう君いわく「ご機嫌なレベル」で、近年ハードなキャラクターモデルユーザーの間でも課題とされている柔らかいプラスチックへのスジ彫りも通常のポリスチレンと変わらず彫れています。プラスチックの粘り気のおかげで少々波打つ箇所もありますが、彫ってから表面をサンドペーパーで軽くならしてからもう一回スジをさらうときれいに仕上がります。
太さが違うのが何本もありますが、これはスジ彫りの太さを場所ごとに変えて見た目にコントラストを付けるのはもちろん、複数の太さを組み合わせて「スジ」とはまた違った表現を可能にしてくれます。よくあるのが「スジ彫りの途中にパネルを固定するためのラッチが埋め込まれた凹ディテールがある」というやつ。実践してみましょう。
切れ味の良いツールだとスジ彫りが楽しくなり、どんどんディテールを足したくなるというけんたろう君。「スジ彫りをするためにプラモデルを作る」となると本末転倒ですが、スケールモデルの接着後にパネルラインを復活させるとか、キャラクターモデルの段差形状を別ユニットに見せるとか、使い所はたくさんあります。
重箱の隅をつつくなら「ツールスタンドの高さがちょっとありすぎ&ホールド感がないのがちょっと気になる」とか、「先端に向かってほんの少しテーパーがかかった形状(これは耐久性を重視した結果だそう)なので深めのスジを彫るとどうしても断面が台形になり、やや太く見える……」といった細かなウィークポイントもありますが、実作を旺盛に重ねていくうえではそこまで大きな問題ではないでしょう。
グリップ感や重量感といった取り回しの良さはもちろん、刃先の硬度や形状で「耐久性と切れ味のバランス」を追求(これは加工性……つまり入手しやすい価格や生産量に直結するポイントですね)。ツールの進化によって表現の幅が広がり続けるプラモデルの世界に、またひとつナイスな工具がやってきました。
「スジ彫りをガチってみたい!」というあなたにもおすすめできる「DULO タングステンブレードPRO」、価格は単体で税込み2980円、セット販売も予定されております。ぜひご贔屓に!
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。