
現代最強の多用途戦闘機として、アメリカをはじめ各国で配備が進むF-35シリーズ。空中戦も対地攻撃もこなすマルチロールぶりと、レーダーに映らないステルス性能を両立した、「そんなチート性能の機体って作れるんだ……」と感心するしかない戦闘機である。

このF-35の特徴のひとつが、空軍用・海兵隊用・海軍用というそれぞれ異なった性能を求められる形式を、一機種のサブタイプで賄おうとしている点。現在は通常の空軍型であるA型、海兵隊などが運用するB型、海軍が運用する艦載型のC型の3タイプが運用されているのだ。陸上の基地から飛び立てるA型と違い、海兵隊が使うB型では狭い揚陸艦から離発着できるような短距離離陸・垂直着陸能力が求められるし、海軍が航空母艦で運用するC型は低速での安定性や着艦用の強度が必要。本来ならば別々の飛行機を用意しないといけない状況である。
それを一種類の飛行機から派生したサブタイプでまとめて賄うことができれば、大幅なコストカットや開発プロセスの省略になって効率的……というのは誰しも考えるが、実現するのは至難の業。F-35がすごいのはそれを成し遂げ、さらに当代随一の空戦性能やステルス性も実現したことである。普通に戦闘機を作るより、グッと高いハードルをクリアした機体なのだ。

そんなF-35を次々にプラモデルにしているのが、ハセガワである。これまでに空軍向けのA型、海兵隊向けのB型を定番キット(ある程度恒常的に模型店などの店頭に並んでいるキット)としてコンスタントに製品化し、デカールが異なる限定盤も数多くリリースしてきた。
ちょっと興味深いのが、A型の後に発売されたB型は完全新金型のキットになっている点である。A型とB型には違いが多い。なんせB型は胴体のど真ん中に機体を垂直に持ち上げるための軸駆動式リフトファンがついているし、尾部の排気ノズルだってグネグネと下向きに90°曲がる設計だ。実物の飛行機は設計を流用しているかもしれないけれど、実際にプラモデルにしようと思うと、「A型をちょっと手直ししてB型にする」などという小手先の修正ではどうにもならないのである。



ハセガワの男気を感じるのは、そんな面倒な飛行機を新しく金型を用意してまでプラモデルにした点だ。A型が出てるんだから、B型までやらなくてもいい(実際、一種類発売しただけのメーカーはある)。にもかかわらず、ハセガワは話題の最新戦闘機のバリエーション展開を諦めなかった。そしてA型もB型も、今時の洗練された作りやすいキットとして製品化したのである。

キットはそんなハセガワの執念と男気を感じさせず、繊細な質感のモールドがあしらわれた端正なものだ。実機と異なり、設計の流用では再現できなかったバリエーション機を、完全に設計し直してさらりとキット化してみせる。そんなハセガワのクールさに想いを馳せつつ、組み立てたいプラモデルなのである
