
グッドスマイルカンパニーの『MODEROID』シリーズから発売された、1/100 ザブングルの存在にはとことん驚かされた。筆者には「自分は筋金入りのザブングル マニアである」という自信があるのだが、その立場から重箱の隅をつつくような視点で眺めても、「このとんでもないキットに対しシビれないのならば、”ザブングル マニア”を語る資格はない」と言い切ってしまえる内容だ。
ザブングルのプラモデルには、先行して2008年に発売された「1/100 R3 ウォーカーギャリア」という傑作プロダクト(筆者もスーパーバイザーとして開発に深く関与した)が存在する。1/100 MODEROIDザブングルについて語るためには、補助線としてまずこのキットについて言及する必要があるだろう。ストレートに言えば(無論見る人によりけりではあるが)1/100 MODEROIDザブングルは1/100 R3ギャリアと比較してギャリアが見劣りしてしまうほどの猛烈なクオリティを有していたからだ。
1/100 ウォーカーギャリアは「新主役メカとして劇中に颯爽と登場しながら、1/100スケールキットでの製品化が中止と化してしまった」という1983年における無慈悲な事件への決着の場であった。スーパーバイザーとして1/100 R3ギャリアの開発に深く関わった筆者としても、プラスチックモデル本体の形状や細部のディテールのみならず、パッケージデザインや付属小冊子の構成と原稿執筆、さらにはプロモーションの方法なども含め相当に深いレベルの箇所まで「これ以上いったい何を望むんだ!?」というレベルのハイクオリティな1/100 ウォーカーギャリアを世に送り出せた自信がある。同時に、「1981年から1984年まで続いた狂乱の4年間における、当時の“リアル”なディテール表現」も、2008年バージョンへと適切にブラッシュアップしつつ違和感なく盛り込めた自信もある。
この1/100ウォーカーギャリアが存在する以上、いま1/100でザブングルをプラスチックモデル化する際には「1/100 R3ギャリアと1/100 MODEROIDザブングルの完成品を並べて飾った際にザブングル側に違和感が生ずる」という状況は許されない。つまり1/100 MODEROIDザブングルには、1982年の番組放映当時バンダイから製品化された1/100 ザブングルシリーズという源流のディテール表現をスタート地点としつつ、1/100 R3ギャリアを途中経過し、さらに、1/100 R3ギャリア発売以後15年分ホビー業界内に蓄積された2020年代なりのディテールやプロポーションを盛り込みつつ、分離合体変形機構と同時に広い可動領域の確保することが要求されたわけだ。これは非常に高いハードルと言ってよいだろう。

そんなMODEROIDザブングルは(R3ギャリア発売から15年の後出しジャンケンのため時間的なアドバンテージが存在するにしても)アニメ劇中そのままの分離合体変形機構を有し、2020年代基準によるロボットモデルの可動とプロポーションの両立を成し遂げてしまった。過不足なく各所に施された追加ディテールもじつに見事(とくに凹モールドの入れ方がガンプラのそれではなく、ウォーカーマシン特有のものとなっていることに注目してみてほしい)。そして胸部の円形パーツに関しては一部に投光器説が存在するため(ただし劇中でそんな描写は存在しなかったし、あんな巨大な投光器が胸部にある必要はまったくないのだが)、小うるさいマニアのツッコミを退けるため黄色とクリアーの2パーツをキットに付属させる念の入れよう。1/100 R3ギャリアと同様に文句の付ける余地が基本的に一切存在しない。
当然ながら企画&開発担当者はそのあたりで大いに苦悩したと思っていたのだが、ところがどっこい、いざ蓋を開けてみるとそうした問題を余裕綽々でクールに「さくっ」とクリアしてしまったキーパーソンが存在した。
そのキーパーソンとは、かつてバンダイのコレクターズ事業部などに在籍し、近年になりグッドスマイルカンパニーへ転職した“田中宏明”という人物である。

田中氏はバンダイ キャラクタートイ事業部 ハイターゲットチーム(現在のバンダイスピリッツ コレクターズ事業部の前身となるチーム)に在籍中、2005年9月発売の『超合金魂』GX-28 戦闘メカ ザブングルのオマケに(1/100 ウォーカー・ギャリアと同様に、1983年に製品化が予告されつつ未発売の憂き目にあった)1/144 ブラッカリィの半完成品モデルを同梱するアイディアを投じた人物だ。ちなみになぜ「半完成品」という中途半端な形態を取ったのかというと、「そこは社内の玩具部門として、プラスチックモデルをそのまま付けるのはやはり本家のホビー事業部に対して失礼だろう」という忖度があったためだと同氏は語る。
そして、この「分かっている感」に基づく販売戦略に対し、世のザブングル マニアたちは大号泣。販売成績も「非常によかった」とのことで、2007年1月には超合金魂 GX-35 ウォーカー・ギャリアにも半完成品の1/144 ドランタイプをオマケとして同梱してみせた。ちなみにドランタイプも、1983年にバンダイから1/144スケールキットとして発売告知が成されたのちに未発売となったアイテムのひとつである(なお、ブラッカリィもドランタイプも1/144プラスチックモデルシリーズを意識したパッケージデザインとなっており、しかも、ボックスアートは製品のデジカメ撮影画像を加工しイラスト風に仕上げたのだという。言われてみれば確かに、ドランタイプのそれは、1/144 オットリッチタイプにおけるボックスアートのオマージュ=強烈なアオり視点になっていることに気付くはずだ。)
つまり、2008年におけるホビー事業部主催の公式なザブングルまつり(R3ギャリアの発売だけでなく、1/100 ザブングルシリーズ25年ぶりの復刻再販)が行われる前に、田中氏は超合金魂のオマケを通じ、奇しくもプラスチックモデル文脈を通じたザブングルの血脈をたったひとりで保ち続けていたのである。

なお、その後田中氏は、2010年代に入りバンダイ キャンディ事業部において『スーパーミニプラ』(バンダイ キャンディ事業部の子供向け食玩キットブランドである『ミニプラ』を換骨奪胎した、ハイターゲット向け組み立て式プラスチックモデルの食玩ブランド)の立ち上げに従事。同ブランドにてザブングルとウォーカー・ギャリアを手掛けたのちに、グッドスマイルカンパニーへ転職、そこでようやく最新技術を用いたフル規格のプラスチックモデル=MODEROIDシリーズの1/100 ザブングルを手掛ける機会を得た。
製品形態はともあれ、バンダイ在籍時からカウントすれば3度目のザブングルとの対峙、まさしく「3度目の正直」である。ある意味呆れるほどのザブングル愛だ。そんな田中氏自身も、今回の1/100ザブングルに関しては(控えめな発言ではあったが)「よい製品に仕上がったと思います」と語る。まさに逸品中の逸品と言っていいだろう。

なお、これは今回の田中氏への取材で初めて知った余談なのだが、筆者も関わったR3ギャリア開発時、同氏は事業部の垣根を越え、R3ギャリアの開発に対しアドバイザーとして参加していたのだという。
つまり1/100 R3ギャリアと1/100 MODEROIDザブングルには、量の大小こそ分からぬが、じつは同じDNAが組み込まれていたことになる。この話を知らされた時、筆者は鳥肌全開で涙腺は崩壊寸前。「まさか、こんなできすぎたドラマが裏に存在していたなんて……」と言うしかない。
ちなみに1/100 R3ギャリアの発売は2008年4月、つまり、なんとすでに15年前! 当時、R3ギャリアの発売を待ちわびていた熱狂的なザブングル マニア=テレビ番組放映が1982〜1983年のため、逆算すると当時40歳前後だった人たちは、いまはもうすでに55歳前後だ。
成型色が原色バリバリで、ランナーを眺めているだけで目が痛くなるようなこの異質なプラスチックモデルに対し55歳前後のロートルモデラーたちがなぜここまで大騒ぎしているのか、それはザブングルのキットだけが持つ「ガンプラとの絶妙な差異」にあり、そして前述のようにこのキットはその「差異」すら自らのものとして取り込んでいる。これはひとえに田中氏のザブングル愛の賜物だろう。
だからこそ、1/100 MODEROIDザブングルは1982~1983年当時に発売されたバンダイ製1/100 ザブングル シリーズのことをよく知らない人にぜひ組んでみてほしい。いまは、リアルロボットモデルに関しては「ガンプラという無敵のベンチマーク」が存在しているため、1/100 MODEROIDザブングルを組みはじめればすぐに「意図的にそうされたガンプラとの絶妙な差異」に気付くはずだ。
そして、そうすればまちがいなく、「2022年末に完璧なクオリティを有する1/100 MODEROIDザブングルが製品化された幸福感とその重要性」の意味合いもくっきり見えてくるに違いない。