タミヤ製1/12ビッグスケールシリーズは、ただのプラスチックモデルではない。

 組み立てた経験はないと思われるが、タミヤの1/12ビッグスケールシリーズにタイレルP34 シックスホイーラーがラインナップされていることをご存知な方は結構いるのではなかろうか。そう、世界で唯一実戦を戦ったことで知られる、6輪車のF1マシンである(※ちなみに「タイレル」は当時の誤った法語表記で、実際の発音は「ティレル」が正解)。
 同キットがタミヤからリリースされたのは1977年6月で、当時価格は3,500円。近年発売されるプラスチックモデルはどれも高額なものが多いため「3,500円」という価格に驚くようなことはないと思うが、仮に実車のことが大好きでも、当時はおいそれとレジへ持っていくことができなかった真意での最高級ハイエンドモデルである。

▲アルミ挽き物のエアファンネルやエッチングパーツは上質なデザインを施された専用の内箱に収められている

 そんな1/12 タイレルP34が今回、多数のエッチングパーツやアルミ切削製のエアファンネルパーツなどを追加し、よりハイディテールと化したリニューアル形態にて再度1/12ビッグスケールシリーズに加わることとなった。
 まず箱の蓋を開けて中身をじっくり観察すると、「……こんなに精密で形状の正しいキットが45年前に産み落とされていたのか!」という現実に驚かされるはずだ。
 というのも、一般的なカーモデルはマシンの外観を追うことに徹しており、中にはボンネットパーツを開くとエンジンが再現されているようなものもあるにはあるが、それは少数派と言ってよい。大抵はコクピットパーツの再現のみで、ボディパーツの中身は半ばがらんどう。例えるならば「餡が入っていないモナカの皮」状態だ。

▲左が1/12スケールのタミヤ製DFVエンジン、右の1/20スケールのパーツよりもグッと解像度が上がる。

 しかしタミヤの1/12ビッグスケールシリーズ(とくにF1モデル)は、そうした一般的なカーモデルのフォーマットとは根本的なところから異なる。パーツ分割は実車そのものどおりで、それを組み上げていくことで実車構造が手に取るように分かるという、いうなれば“3Dテキスト”とでも称すべき構造を有しているのだ。
 たとえば4本の前輪は実車同様にラック&ピニオン・ステアリングシステムでハンドルと連動しているのだが、そうして前輪を可動させるとある事実に気付く。アッパーカウルに存在しているバナナっぽい形状の覗き窓が存在しないと、コクピットに座ったドライバーは4本の小径フロントタイヤの挙動を目視することができないためだ。

▲コクピットの側面に開けられたバナナ状の窓。組んで覗けばあなたもパイロットの視点を得られる

 タミヤは1/12ビッグスケールシリーズ第1弾(ホンダF-1)からこうした3Dテキスト フォーマットを採用していたので、タイレルP34のパーツ状態をいま眺めても「45年も昔に開発されたキット」とは到底思えないほど先鋭的な内容を有している。45年前の時点で丹念な実車取材に基づき「正解」を導き出していたため、2022年にそれが小売店に並んでも「古臭い」「似ていない」といった否定的な感情を抱く余地はいっさい存在しない。
 なお、今回のリニューアル再販にて価格は税込み15,180円まで上がってしまったが(発売当初価格のほぼ4倍強!)、キットの蓋を開けて中身をよくよく観察すれば、税込み15,180円が決して高くないことに気付くはずだ。
 そして、最後にこれだけは言っておこう。「タミヤの1/12ビッグスケールシリーズは古びることを知らない」と。なぜならば、古びる余地がどこにも存在しないためだ。

あさのまさひこ
あさのまさひこ

知る人ぞ知る、知らない人はまったく知らない模型文化ライター。
五十嵐浩司氏との共著『’80sリアルロボットプラスチックモデル回顧録』(竹書房)絶賛発売中。