重ね合わせのアイデンティティ/量子論的プラモデルで手に入れる「うどん・そば自販機」

 それはあまりにも板だった。にしても、板すぎやしませんか……と思ったけどさ、自動販売機というのはそもそも直方体の6面のうち5つの面がのっぺらぼうみたいなもんですから、こんなふうに板がたくさんになります。1枚のランナーに1枚の板が付いている意味は……これがプラモデルであることの証明だと思って慈しみながらパーツを切り出しましょう。

 このうどん・そばの自販機は既発売のハセガワ 1/12 フィギュアアクセサリーシリーズ レトロ自販機(ハンバーガー)のバリエーションキット。なので左右上下背面の板には「RETRO VENDING MACHINE」のタグが付いてます。普通プラモって日産のスカイラインとかグラマンのトムキャットとか、かなり具体的なものをモチーフにしてますけど、「レトロ自販機」ってのはもう「クルマ」とか「飛行機」みたいなレイヤーですよね。概念がデカい。

 そして現れる「UDON SOBA」のタグ。強い。富士電機製VFN-901をモチーフにしたと思しきこのプラモのアイデンティティにたどり着いた……ような気がします。つまり自販機の個性は前面のパーツにこそ現れるわけですよ。……ほんとうに?

 そう、VFN-900系の自販機にはラーメン単品、そば単品、ラーメンうどん併売型などの存在が好事家によって確認されており、このパーツ状態だけを見る限り、このプラモが何の自販機かはまだ確定していないのだ……。ランナーとパーツが切り離された瞬間、ふたたび自販機前面のパーツは「オレ、なんの自販機だったっけ?」と状態の決定しない何かになります。ネコチャン……。

 同梱されたシール。「うどん そば」の絵と字(実機からはアレンジされていますが……)が入っていますが、、つまりここにベタッと「うどん そば」のシールを貼ることによってようやくこいつが「うどん・そばの自販機である」ということが確定するのです。そんなプラモあります?シール貼るまで何者か決まらないっていう……。

 ここで問題です。これはUDONでしょうか。SOBAでしょうか。

 さっきのシールを見ると、このパーツの上から貼る模様としてうどん(麺が白い)とそば(麺がちょっとグレー)の両方が入っています。つまりこれはうどんであり、そばであり、アルファでありオメガ。ユーザーがうどんだと信じてシールを貼る(もしくは塗る)ことでうどんになり、そばだと信じた時にそばになる。またも重ね合わせの状態が続く……。っていうかシール貼ったらこの素敵な造形が隠れちゃうじゃない?どうします?

 何の変哲もない、何者にもなり得るハコと、自販機の特長を備えた前面のパーツ。そこから出てくるプラスチックのドンブリに入ったうどんにもそばにもなり得るパーツ。行灯のパネルをくり抜いてアクリル板に置き換え、それっぽく電飾を……なんて考えていましたが、その前に私はこのプラモの持つ「モチーフとは何か?」「再現するってどういうことか?」という問いかけを勝手に受け取ってワナワナしているのでした。

 模型行為の本質でもある「見立て」にも、まあいろんな種類があるんだよね。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。